マイク・ペリーのバイオディーゼル・レセピ 手づくり企画「ジャーニー・トゥ・フォーエバー」


滴定に使う用具と薬品類


これから滴定する、廃食用油のサンプル


適切なpHになったときの指示薬の色。この色になったら滴下を止める


苛性ソーダを量っているところ


バイオディーゼル燃料の反応槽を加熱するバーナーに点火


マイクお手製のバイオディーゼル燃料製造装置。電動ドリルを2つ使い、危険な化学薬品に手を触れることなく、左上のナトリウムメトキサイド攪拌機から、右の燃料反応槽に、自動的に流入するよう工夫されている


反応槽で攪拌されている廃食用油の中にナトリウムメトキサイドが流し込まれる様子。右の温度計で温度をチェックしながら


反応後、分離して沈殿したグリセリンを反応槽の底から取り除いているところ


燃料ポンプと燃料フィルター。手づくり燃料は車に給油する前にきれいに洗浄すること


台車に設置されたマイクのバイオディーゼル燃料製造装置。長年の経験と実験の繰り返しから改造を重ねたマイクのお手製。左のガスボンベは廃食用油を加熱するため。中央両端にある円筒コンテナは石鹸分を取り除く装置。画面上部になんとか写っているのがナトリウムメトキサイド攪拌装置で、右にあるのがバイオディーゼル燃料反応槽


完成した手づくりバイオディーゼル燃料!


マイクのバイオディーゼル燃料反応装置第1号



<新しいページ紹介>
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バイオ燃料

バイオディーゼル燃料

自分で作ってみよう! 
バイオディーゼル燃料の作り方

マイクの「1段階 アルカリ方式」
アレックスの「2段階 アルカリ-アルカリ方式」
アレックスの「2段階 酸-アルカリ『Foolproof』方式

燃料製造器も自分で作る!
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香港バイオディーゼル物語
排ガス中のNOxは問題か?
副産物グリセリンの活用法
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手づくりバイオディーゼル燃料の作り方
マイク・ペリーのバイオディーゼル・レセピ
〜「1段階 アルカリ方式」


お手製の台車を引いてバイオディーゼル燃料のデモに出発!
アメリカ北西部に住むマイク・ペリー氏は過去数年間自分で廃食用油からバイオディーゼル燃料を作り続け、何台ものディーゼル車を稼働させてきた。「廃食用油から作ったバイオディーゼル燃料は、石油原料のディーゼル燃料(軽油)より、はるかにすぐれた高品質の燃料」とはベテラン・マイクの言葉。

再生可能なバイオ燃料のために生きている、そんなマイクが5年間にわたるバイオディーゼル燃料作りの経験が詰まったノウハウを投稿してくれた。マイクの原稿と写真をキースがまとめて「ジャーニー・トゥ・フォーエバー」のウェッブサイトに掲載したら大ヒット! 世界中の草の根バイオディーゼラーたちが自家製バイオ燃料を作り始めた。

マイクは言う。「このレセピをみんなに広めて、バイオ燃料運動を盛り上げよう!」

マイク・ペリーのバイオディーゼル・レセピ
〜廃食用油からバイオディーゼル燃料を手づくりする方法

マイク・ペリー著

これから紹介するのは、廃食用油から自家製バイオディーゼル燃料を作る方法。原料となる揚げ油や動物脂肪、ラードなどの廃食用油は、タダでもらえることが多い。燃料作りに必要なものは、基本的な化学薬品と身近な道具や自分で作ったりできる道具だけ。バイオディーゼル燃料作りには、高価な機械も大きな工場も必要ない。

こうしてコストをあまりかけずに手作りしたバイオディーゼル燃料は、無改造のディーゼル・エンジンにそのまま使うことができる。排ガスは軽油よりずっときれいだし、今は捨てられていることが多い廃棄物をリサイクルできる再生可能なエネルギー源。おまけに潤滑性が良いから、エンジンにとっても軽油よりバイオディーゼル燃料の方が軽やかに稼働してくれる。

シアトル・タイムズの1面で紹介されたマイクと燃料製造器。2002年9月30日

警告!!!
燃料作りの作業中は、適切な化学実験用防護手袋、防護エプロン、防護眼鏡を装着すること。作業場は充分に換気し、発生した蒸気は絶対吸い込まないこと -- 有機ガス用のマスクを装着する。メタノールは飲み込まなくても皮膚から吸収され盲目や死をもたらす恐れがあります。水酸化ナトリウムは重度の火傷や死をもたらす恐れがあります。この2つの物質を混ぜたナトリウムメトキサイドは非常に腐食性のある化学物質です。安全のためマスクを装着し、全身を保護する服装で臨むこと。半ズボンとかサンダルはダメ。長袖の上に止められる耐薬品手袋も忘れずに。万が一のときに薬品を洗い流すため、流水を近くに用意しておくこと。小さな子供やペットを作業場に入れないこと。化学物質はそれなりの取扱いをしてください。

草の根バイオディーゼル燃料の作り方

用意する物

原材料:

  • 廃食用油(揚げ油、ラードなど、植物性・動物性の油脂なんでも)
  • メタノール(CH3OH) -- 純度99%以上のもの
  • 水酸化ナトリウム(NaOH 苛性ソーダ) -- しっかり乾いたもの



Countryside Magazine」2000年11-12月号でも取り上げられた

滴定に必要なもの:

  • イソプロピルアルコール(Isopropyl alcohol) -- 純度99%以上のもの
  • 蒸留水
  • フェノールフタレン液--酸塩基指示薬。光の当たらないところで保管された製造1年以内のもの。プール用品店で売っているフェノールレッドは違う。


洗浄に必要なもの:

  • 酢酸(お酢)

作り方の手順

  1. 廃食用油を濾過し、食べカスや固形不純物を取り除く
  2. 廃食用油を加熱し、水分を蒸発させる(できれば)
  3. 滴定をして必要な触媒の量を計算する
  4. ナトリウムメトキサイド(sodium methoxide)を用意する
  5. 廃食用油を暖め、かき混ぜながらナトリウムメトキサイドを加え、化学反応させる
  6. 数時間静置し、沈んだグリセリンを取り除く
  7. 不純物を洗い流し乾燥させる
  8. できたバイオディーゼル燃料の品質をチェックする

バイオディーゼルとは植物油と軽油もしくは灯油を「混ぜた」ものだと思っている人が多いけれどそれはマチガイ。バイオディーゼルは油脂を「化学反応」させて別の物質にしている。

油をバイオディーゼル燃料に変えるときの化学反応は、エステル交換(transesterification エステル転移反応)と呼ばれるもの。まず水酸化ナトリウムとメタノールを混ぜてナトリウムメトキサイド(Na+ CH3O-)を作る。この強力なナトリウムメトキサイドが油をグリセリンとエステル鎖に分解する。こうしてグリセリンへのエステル結合から解き放たれたエステル鎖がバイオディーゼル燃料になる。

エステル交換を引き起こすとき、アルコールとしてメタノールを使うと「メチルエステル」のバイオディーゼル燃料ができ、エタノール(つまり、お酒)を使うと「エチルエステル」のバイオディーゼル燃料ができる。

図1は原料の油(油脂)。グリセリンの水酸基3個に脂肪酸が一つずつ結合した化合物であるトリグリセライドを示している。

図1

図2は、ナトリウムメトキサイド(Na+ CH3O-)により「エステル交換」の化学反応が行われ、油(トリグリセライド)がグリセリンとバイオディーゼル燃料に分離される様子(図1のジグザグ線をR1-3で置き換えている)。

図2

このとき、水分が含まれていると「けん化」の化学反応が起こり、燃料ではなく石鹸ができてしまう(図3)

図3

1. 原料を濾過する

原料となる廃食用油をフィルターで濾過し、食べかすや固形不純物を取り除く。油がドロドロに固まっているようだったら、摂氏35度くらいに暖めてから濾過した方がスムーズに流れる。チーズクロスを2枚重ねて漏斗にはめ込んだものや、業務用の大きなコーヒー・フィルターを使うとグッド。自分で工夫してみて。

2. 水分を取り除く

バイオディーゼル燃料を作るとき、まず廃食用油を熱して水分を蒸発させる人が多い。特に燃料作りの初心者にはお勧め。使用済みの油はたいてい水分を含んでおり、この水分が化学反応を遅らせたりエステル交換の代わりに「けん化」を起こして石鹸を作ってしまうから。原料から水分をできるだけ取り除くことが燃料作り成功へのポイント。


マイクと友人のジョー。有機農家のジョーは毎週150リットルのバイオディーゼル燃料を自分で作り、農作業に使うトラクターやトラックを稼働している
廃食用油を100度まで加熱し、水分を沸騰して蒸発させる。油の中に水蒸気の泡がたまると突然弾けて熱い油をまき散らすため、必ず静かにかき混ぜながら加熱すること。廃食用油に多く水分が含まれている場合は、加熱すると油から分離した水が底にたまるため、底から水分を流し出した方がラク。

沸騰の勢いがおさまったら、さらに130度くらいで10分間ほど加熱し残りの水分をとばす。油を火から下ろして冷ます(火傷しないように!)

もしラッキーにもあまり水分が含まれない廃食用油を手に入れることができたり、バイオディーゼル燃料作りに慣れてきたら、わざわざ加熱しない方がムダな時間とエネルギーを使わなくてすむ。実際ボクは手間とエネルギーが惜しいから水分を蒸発させていない。だけど燃料作りに自信が持てるまで、失敗を防ぐためにこの手順で下準備した方が無難。

3. 滴定をして必要な触媒の量を計算する

エステル交換に必要な水酸化ナトリウムの量は、原料となる廃食用油の種類やその使用度によって異なってくる。そこで燃料作りの原料となる廃食用油を「滴定」し、その時の燃料作りに必要な触媒の量を算出しなければならない。これが一番難しい。バイオディーゼル燃料作りの成否を決めるポイントなので、慎重にできるだけ正確な滴定を行うこと。

重要!水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)はしっかり乾いたものを使うこと。密閉容器に保管し、手早く扱うこと。

蒸留水1リットルに水酸化ナトリウム1グラムを溶かしてNaOH水溶液を作る。水酸化ナトリウムを完全に溶かすこと。これが滴定の標準溶液となるため、汚れないように気を付ける。1回NaOH水溶液を作ると数回の滴定に使うことが出来る。

イソプロピルアルコール10ミリリットルと、原料となる廃食用油1ミリリットル(きっちり1ミリリットル)をビーカーなどの小さな容器に入れて攪拌する。滴定に使う廃食用油のサンプルは、下準備を終えよくかき混ぜた化学反応直前の原料からとると良い。

この「イソプロピルアルコール+廃食用油」の液に、フェノールフタレイン液を2滴たらす。フェノールフタレイン液は、酸性なら無色、アルカリ性なら赤色になる酸塩基指示薬。

重要!製造から1年以上過ぎたフェノールフタレイン液は指示薬として正常な測定結果を示さないため、新しいものを使うこと。光によっても劣化するため、適切に保管されていたものを使うこと。

10分の1ミリリットルずつ目盛りのあるスポイト、もしくは医薬用品店で売っているような目盛り付き滴定用具を使い、滴下した量を注意深く数えながらNaOH水溶液を1滴ずつ「廃食用油+イソプロピルアルコール+フェノールフタレイン液」の溶液に滴下する。

1滴滴下するたびに、溶液をよくよく攪拌すること。寒い時期には廃食用油が固まる恐れがあるので、滴定は暖房の利いた部屋でした方がよいかも。上手くいけば滴定の溶液がピンク色に変わり、やがて10秒間ピンク色のままに留まったとき、溶液がph8〜9になったことを示している(左の写真を参照)。ちょうどこのphになるまでに滴下したNaOH水溶液の正確な量を見つけることが大切。うっかりして滴下しすぎないように!

正確な数字を割り出すために、滴定は2回以上繰り返したほうが良い。原料がどんな油か、何度まで加熱されたか、中で何が揚げられたか、どれくらい長く使われたかなどなど、廃食用油の状態により幅があるけれど、僕の経験では滴下するNaOH水溶液の量はだいたい1.5〜3ミリリットル。pHを測定するためにはフェノールフタレイン液の代わりにリトマス紙やpHメーターを使ってもOK。

未使用の食用油も試しに滴定してみたら、フェノールフタレイン液の色を変える(pH8〜9になる)までに滴下するNaOH水溶液の量はずっと少ないことがわかると思う。

計算の仕方

次に、化学反応に必要な水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)の量を計算する。

滴定でスポイトから垂らしたNaOH水溶液の「ミリリットル数」に、エステル交換する廃食用油の「リットル数」を掛ける。

もう一つ。未使用の植物油をエステル交換させるためには、油1リットルに対し3.5グラムの触媒が必要。なので廃食用油1リットルあたり3.5グラムの水酸化ナトリウムを計算に加える。

たとえば、滴定でpH 8〜9になるまでに滴下したNaOH水溶液の量が2.4ミリリットル、エステル交換させる廃食用油の量が150リットルの場合。

2.4グラム x 150リットル = 360グラムの苛性ソーダ
加えて、3.5グラム x 150リットル = 525グラムの苛性ソーダ
360 + 525 = 885グラム
よって、このエステル交換に必要な水酸化ナトリウムの量は885グラムになる。

僕の経験では、廃食用油1リットルをエステル交換させるために必要な水酸化ナトリウムの量はだいたい6〜7グラムぐらいのことが多い。

まずは少量で試してみる

バイオ燃料作りの初心者はもちろん、経験者でも大量の廃食用油をエステル交換する場合は、滴定で算出した水酸化ナトリウムの量が適切かどうかを、まずは1リットルの原料を台所のミキサーで化学反応させて試してみるのをお勧め。ミキサーが原材料をしっかり攪拌してくれるため、加熱しなくても化学反応が行われ、手軽に結果を出すことができる。

まずは水酸化ナトリウムとメタノールをミキサーで攪拌する(このミキサーは食べ物用に使わないこと!) ミキサーは隅々まで完全に乾いていることが大切。水酸化ナトリウムとメタノールを混ぜると発熱しながらナトリウムメトキサイドになる(ナトリウムメトキサイドは危険な化学物質なので、飛び散らさないように要注意!) 水酸化ナトリウムが完全に溶けるまでしっかり攪拌する。

ナトリウムメトキサイドが準備できたところで、そのミキサーに廃食用油を1リットル加える。よほど油がドロドロでミキサーも歯が立たないほどでなければ、油を加熱する必要もない。材料はすべてキッチリ計量すること。滴定結果が不明確な場合、廃食用油には1リットルあたり6〜6.25グラム、未使用の植物油には3.5グラムの水酸化ナトリウムがおおまかな目安の量になる。ミキサーで15〜20分攪拌すればエステル交換完了。そのままミキサーの中で、もしくは別の容器に入れ替えて静かなところに安置し、グリセリンを沈ませる。

苛性ソーダの量を変えながら1リットルずつ実験すると、その結果を比べて最適な触媒の量を割り出すことが出来る。

触媒が多すぎた場合、扱いがやっかいなジェルができてしまう(「ドロドロ石鹸」参照)。触媒の量が少なすぎた場合にはエステル交換が未完成に終わり、バイオディーゼルと未反応の廃食用油とグリセリンの混合物ができ、安置しておくと上からこの順番に3層に分かれる。原料に水分が含まれていた場合は、廃食用油とグリセリンの間に石鹸の層ができ、これを綺麗に分離させることは難しい。

4. ナトリウムメトキサイドを用意する

バイオディーゼル燃料作りに必要なメタノールの量は、廃食用油の重量比にして20%。メタノールと廃食用油の比重はだいたい同じだから、廃食用油の容積(リットル数)を計り、その20%の量のメタノールを用意すれば、大体OK。より厳密にするためには、廃食用油とメタノールを半リットルずつ重さを量り、計算して、重量比20%の量を割り出すと良い。廃食用油の種類や使用度によってその比重は多少変化する。

例)100リットルの廃食用油をエステル交換する場合、20リットルのメタノールを使う。

メタノールと水酸化ナトリウムを混ぜると、発熱しながら反応してナトリウムメトキサイド(sodium methoxide)になる。水酸化ナトリウムに触れる用具はすべて乾燥しているものを使うこと。

警告!!! ナトリウムメトキサイドは充分注意して取り扱うこと! 蒸気を絶対吸い込まないこと! ナトリウムメトキサイドが皮膚に付着すると、神経も殺して腐食するため痛みも感じない間に大やけどになる恐れがあります。万が一ナトリウムメトキサイドが皮膚に付着した場合は、大至急大量の水で洗い流すこと。そのためナトリウムメトキサイドを扱う間は流水を近くに用意しておいてください。

ナトリウムメトキサイドは塗料も腐食する。一方、水酸化ナトリウムはアルミニウム、スズ、亜鉛と反応してしまうため、ナトリウムメトキサイドを作る用具には、ガラスかエナメル、もしくはステンレススチールなどの用具を使うこと(ステンレススチールが一番お勧め)。中古の調理用品店や金属類リサイクル業者で用具を調達する人が多い。必要であれば配管をハンダ付けしたりして工夫する。

5. 暖め、かき混ぜ、反応させる

原料の廃食用油を加熱して48〜54度に暖める。

化学反応の間、原料をしっかり攪拌する装置を設定する。プロペラかペンキ攪拌棒を繋いだ1/2インチ電動ドリルをジグで台に固定したものなどがちょうど良い。

あまり激しく攪拌すると飛び散ったり渦巻きが出来て泡だったりして化学反応の効率が落ちてしまう。表面に浅い渦が一つでき、静かにでもしっかりと全体をかき混ぜるよう、攪拌の回転速度や羽の長さを調節する。

もっと静かな燃料作りをしたい人は、電動ポンプを使って廃食用油をかき混ぜるプロセッサを作ってもよい。ポンプが詰まらないように、グリセリンが沈殿するところより上にポンプを設置する(下記参照)

廃食用油を攪拌している中に、準備しておいたナトリウムメトキサイドを静かに注ぎ込み、50分から1時間攪拌を続ける。化学反応は30分くらいでほとんど終わるけれど、長めにかき混ぜた方がベター。

こうしてエステル交換させることにより、メチルエステルがグリセリンから分離される。メタノールのCH3Oがエステル鎖にキャップをし、水酸化ナトリウムのOHがグリセリンを安定化させる(上の図参照)。

6. 静置し分離させ、沈んだグリセリンを取り除く

エステル交換の化学反応が完了した溶液を最低8時間(できればもっと長く)静かな所に安置し、メチルエステル(これがバイオディーゼル)とグリセリンの層を分離させる。グリセリンは凝結しゼリー状になって底に沈むはず。

グリセリン

廃食用油からできたグリセリンは茶色く、普通38度より低い温度で固まり始める。未使用の植物油から作ったグリセリンが固体になる温度はこれより低い。

副産物としてできたグリセリンは、3週間ほど寝かしメタノールの残りを発散させてから、コンポストすることもできる。もしくは66度くらいに加熱してメタノールを蒸発させることもできる(メタノールの沸点は64.7度)。

メタノールを完全に取り除き、不純物を沈殿させた後、このグリセリンは立派な工業用洗剤として使うことができる。他にも工夫をすればメタン・ガスやアルコールとして燃料に使うこともできると思う。

グリセリン」のページも参照。

僕はシアトルの工業物品交換会でこのグリセリンを使いたい人を見つけることが出来た。余った工業物資を交換するこのような場は他の都市にもあると思うから、探してみて。
シアトルの工業物品交換会
http://www.metrokc.gov/hazwaste/imex/

石鹸の残り

手づくりしたバイオディーゼルには、石鹸成分が含まれていることもある。これは水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)のNa+イオンが、水分をとらえて油脂をアルカリによる加水分解(鹸化)し、脂肪酸のアルカリ塩(石鹸)を作ってしてしまったもの。

かなりの量の石鹸ができてしまったら、それは廃食用油に水分が多く含まれていたということ。この失敗を防ぐため、燃料作りの前に廃食用油を100度以上で加熱し、余分な水分を蒸発させた方が良い(ステップ2を参照)

それから、ナトリウムメトキサイドを作るときに、徹底的に水分を防ぐことがポイント。用具やミキサーは必ずしっかり乾燥させ、水酸化ナトリウムは空気中に出すとあっという間に水分を吸収してしまうから、素早くメタノールと混ぜる。作業する場所も暖かい乾燥した所を選んだ方が良い。

7. 燃料の洗浄と乾燥

手づくりしたバイオディーゼル燃料をすぐさま愛車の燃料タンクに注ぎ込むことはお勧めしない。まだ不純物が残っているから。純度を高める簡単な方法は、バイオディーゼル燃料を1週間くらい静かな所に安置し、燃料中に混ざっていた石鹸分を沈殿させ、それを濾過して取り除いてから、フィルターを通して燃料タンクに給油する。

もう一つは、水で燃料中の石鹸分を洗い流す方法。1回目は酢酸(お酢)を少し混ぜて、2〜3回目は水だけで燃料を洗浄する。酢酸はバイオディーゼル燃料の中に残っていた水酸化ナトリウムを中和させ取り除く。

図7
例えば図7のような簡単な洗浄装置を作ると便利。透明なポリ塩化ビニルなどのコンテナに、底から7〜10センチほどの位置に蛇口を付けたもの。もし透明なコンテナが見つからない場合は、図7の(6)の様な透明の監視パイプが付いた蛇口を設定してもOK。

洗浄槽の底と蛇口の中間くらいの位置まで水を注ぐ。それから洗浄する燃料を加える。静かにかき混ぜた後、12〜24時間静かなところで安置し油と水を分離させる。蛇口からきれいな油分(=バイオディーゼル)を取り出す。コンテナの中には石鹸水が残っているはず。

バイオディーゼル燃料に含まれる石鹸分をできるだけ完璧に取り除こうと思ったら、このプロセスを2〜3回繰り返す必要がある。2回目からは水だけで洗浄すればOK。3回目の洗浄が終わったら、例えば図8のような装置でバイオディーゼル燃料をゆっくり加熱し、水分と他の不純物を沈殿させる。完成したバイオディーゼル燃料のphを測定すると、pH 7の中性になっているはず。

3回目の洗浄に使った水は、まだ綺麗だから次のバッチのバイオディーゼル燃料を1回目か2回目に洗浄する水として使い、できるだけ節水する。過熱機の底にたまった不純物はまとめて捨てれば良いし、石鹸分も沈殿させて工業用の生物分解可能洗剤として使える。

僕はバイオディーゼルを冷やした方が石鹸分の沈殿が早くなるんじゃないかと思って、いま実験しているところ。温度が下がり石鹸分の凝結が早まれば、バイオディーゼルを純化する時間を短縮することができると思う。

泡で洗う方法

他にもアイダホ大学の泡洗浄という方法もある。これは時間的には長くかかるけれど、洗浄に使う水の量はずっと少なく、効果覿面で綺麗なバイオディーゼル燃料ができるとのこと。

金魚屋や熱帯魚売場でエアーポンプを買って来る。フィルターが付いていたら取り外す。洗浄したいバイオディーゼル100リットルに対し30ミリリットルの酢酸(お酢)を加え、約50%の水を加える。その中にエアーストーンを落とす。

エアーポンプのスィッチを入れると、空気の泡にくっついた水の膜がバイオディーゼルを洗いながら浮上してくる。表面で泡が弾けると、水滴は燃料中の石鹸分を洗いながら沈んで行く。これの繰り返し。

2〜3時間洗浄した後に液体がまだ濁っているようだったら、もう少し酢酸を加えて泡洗浄を続ける。

最低12時間(最高24時間)泡で洗浄したら、水を底から流し出し、表面に浮いているワックスを取り除く。この泡洗浄を2回か3回繰り返す。

もし大量の石鹸ができてしまったら、まずバイオディーゼル+石鹸の混合物を50度くらいに暖め、ph7弱になるまで酢酸を加える。30分ほどかき混ぜ、冷やしてから同じように泡で洗浄する。

8. 品質チェック

手づくりしたバイオディーゼル燃料の品質を、まずは自分の目で確認する。上等のバイオディーゼル燃料は、茶色っぽい澄んだ植物油の様に見える。それからリトマス紙かpHメーターで測定し、中性(pH 7)であることを確認する。

完成したバイオディーゼル燃料は透き通っていること。膜ができていたら石鹸分が残っている証拠。もう一度洗浄するか、目の細かいフィルターで濾過して取り除く。燃料が曇っていたら、燃料の中に水分が残っている証拠。加熱して水分を蒸発させる。

どんな油も加熱したときは比較的透き通って見える。問題は冷やしたときに固まらないかどうか。できれば1〜2週間静置し、不純物を沈殿させたほうが、より純粋な燃料になる。

最終的な濾過には、船舶用燃料フィルターがお勧め。特に透明な容器で中の燃料が濾過される様子が見えるものが良い。僕は初めのころ、自分で作ったバイオディーゼル燃料を洗浄した後、チーズクロスで濾過するだけでタンクに注入して車を運転していたけれど、燃料フィルターの汚れが激しくなるのに気づいてからは、燃料の純度にもっと気を付けるようになった。

もう一つ注意すること。軽油からバイオディーゼル燃料に切り替えると、バイオディーゼル燃料はタンクからエンジンまでの節々にたまっている軽油の燃料カスをみごとに掃除してしまう。バイオディーゼル燃料を使い始めたとき、燃料フィルタの汚れを見逃すことなくこまめに交換すること。僕は車両の燃料フィルタの前に、プラスチックの透明容器に入った安いフィルタを設置している。これだとフィルタの汚れ具合や燃料の様子が一目でわかるし、高い燃料フィルタをしょっちゅう交換するより安く付くから。

いくつかの注意点

バイオディーゼルも完璧な燃料ではない。いくつかのポイントさえ注意して扱えば問題ないけれど。

燃料系統にゴム製品が使われている場合、100%純粋バイオディーゼル燃料を使い続けるとゴム製部品の傷みが早まる可能性がある。最近の車両には燃料系統にゴムがほとんど使われていないし、古い車両も多くは問題なくバイオディーゼル燃料で稼働しているけれど、用心するに越したことはない。Vitonの部品がお勧めと思うけれど、他の製品でも問題ない。詳細は「Durability of Various Plastics: Alcohols vs. Gasoline」ファイルの「Methanol」を参照のこと。

バイオディーゼル燃料はセタン値が高いため、燃料の噴射タイミングを3度くらい遅らせること。エンジンのパワーが少し落ちるかもしれないけれど、エンジン音が静かになるし、燃料温度が下がるためNOxの排出量をおさえることができる(Noxのページも参照)。

冬にバイオディーゼル燃料を使うときは、ちょっと注意が必要。バイオディーゼル燃料は4〜5度くらいで固まり始めるため、燃料に軽油を混ぜたり、電動の燃料ヒーターを使うと良い。市販のantigelling剤を使って問題なかったという話を聞いたことがあるけれど、逆に効き目がないこともあって信用できないとの報告も聞いたことがある。

もしくは、寒いときに使うバイオディーゼル燃料はパーム油から作るのも一案。パーム油は脂肪酸が短いため、固体化する温度が低い。パーム油だと副産物のグリセリンから作った石鹸も高級品になる。

または、アレックス・カック氏が開発した2段階プロセスもお勧め。この方法で作ったバイオディーゼル燃料は、寒いときでも効果的に稼働するとのこと。

バイオディーゼルやエタノールなどの再生可能なバイオ燃料に関心のある人は、「ジャーニー・トゥ・フォーエバー」のウェッブサイトをチェックすることから始めると良い。情報たっぷりのエキサイティングな企画だから、ぜひみんなに紹介して!

安全第一。でも楽しんでね!
(c) 2000 Mike Pelly

謝辞:
「ジャーニー・トゥ・フォーエバー」のキースとミドリへ、「The Fat of The Land」ビデオを作った女性たちへ、バイオディーゼル作り初期にアドバイスをくれたTom Reedへ、Aleks Kac、 Terry de Winne ("Terry UK")、 Dave Elliott ("Dave UK")、 Bill Battagin、 Martin Steele、Evergreen State College (TESC)のPeter Pessikiなどなど「手づくり企画」のバイオ燃料メーリングリストの素晴らしい仲間たちみんな、どうもありがとう。

このレセピに関する質問やコメントをマイクにメールしたい人はY2K_ad@hotmail.comまで。実際バイオディーゼル燃料を作ってみた人は成功談・失敗談をmidori@journeytoforever.orgまで送ってください(写真大歓迎)。よければウェッブサイトやメーリングリストで紹介したいと思います。

(日本語訳協力 岡田晃久さん)

スペイン語に翻訳されたマイク・ペリーのバイオディーゼル・レセピはこちら。
http://eureka.ya.com/energiaweb/mike.htm


手づくり企画の「バイオ燃料メーリングリスト(biofueljp)」

英語で2000年から開設されていたジャーニー・トゥ・フォーエバーの「バイオ燃料メーリングリスト」および「バイオ燃料ビジネスメーリングリスト」では、世界中から参加した3,000人以上の草の根バイオディーゼラーや専門家、学識者、企業家たちが、誰もがどこでも特別な機械がなくてもバイオ燃料を手づくりできる方法を一緒に開発してきました。日本でも草の根バイオ燃料を広めるために、日本語で情報交換や燃料づくりの協力ができるディスカッションの場を設置しました。ぜひご参加ください。
リストURL:http://groups.yahoo.co.jp/group/biofueljp/

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