なぜ有機農か? 手づくり企画「ジャーニー・トゥ・フォーエバー」





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〒622-0291京都府船井郡
丹波町郵便局 私書箱6号
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平賀緑 (日本語&英語)
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なぜ有機農か?

立派な大義名分なんて考えなくてもいい。単に自分勝手な自己防衛のために有機農を選べば正解だと思う。でも有機農は手間がかかりすぎる? 実際は自然を敵に戦うより、自然と協力しながら野菜を育てた方が面倒は少ない。所詮、自然をうち負かすことはできないのだから。

「自然と人間は切って切り離せるものやないのです。それを切り離そうとしたのが、近代農業で、今日の地獄を招いたのです。私は有機農業以外の方法では日本民族は生き残れないと思っています」- 有吉佐和子『複合汚染』1975 梁瀬義亮先生のことば

この教えを覚えて畑に向かったとき、自然は敵から味方に変わり一緒に作物を育ててくれる。


アルバート・ハワード
でも、虫はどうする? 害虫対策に殺虫剤が必要って? 20世紀初めに有機農運動を主導したアルバート・ハワードは「害虫は私の大教授だ」と述べている。虫の攻撃は畑の土に問題があることの危険信号。だから土のバランスを調べもっと堆肥を加えてやると虫は作物を攻撃しなくなる。元気に育つ野菜を虫は攻撃しない。有機農のベテランならだれもが体験していること。

これは魔法でも何でもない。化学物質を使い害虫も害虫を食べる天敵も一緒に皆殺しするよりも、よっぽど科学的な自然の仕組みに従ったまでのこと。風邪が流行ったときにも元気な人は風邪をひかないように、虫がいても元気な野菜は被害を受けない。弱った野菜が虫を誘惑するシグナルを出すことも証明されている。人が元気でいるにはバランスの取れた食事が必要なように、植物が健康に育つためには栄養がたっぷりバランス良く含まれた土が必要。植物のための栄養が土に含まれていなければ、植物は弱まり、それを食べる人間も健康を損ねる。だから土を肥えさせることが一番大切。


「手づくり企画」の有機農園
有機農の要は土を管理し土の肥沃さを維持すること。作物に栄養を施肥するのではなく、土を育てる。肥沃な土壌を育てれば、土が健康な作物を人間よりずっと立派に育ててくれる。

でも、雑草は? 除草剤を使わないと草取りが大変?

畑に生えてくる草を邪魔者扱いするかぎり雑草との格闘は続く。でも、害虫と同じように草も畑の土に問題があることを知らせる自然の警報。経験ある人ならどんな草が生えているかを見てその畑の土に何が足りないかを診断できる。Joseph Cocannouerによる『雑草、それは土の番人』という本の題名が示しているように、表土を守りたい自然の手先としての役目を草は担っている。むき出しの地面は雨や風に浸食される。だから自然は草を生やしてカバーしようとする。草を生やさないためには、マルチで土を保護してあげるといい。

その他にも、表土にミネラルが足りなくなったときは、根の長い草が生えてきて下層土からミネラルを取ってくる。堆肥を加えれば土の養分の問題は解決される。ハーブとか根が深い草も少しは残しておいた方が地面を切り開いて耕してくれる。でも草が養分を横取りしてしまうって? それは畑の地力が足りない証拠。堆肥をもっと加えて土を肥やしてあげれば問題ないし、そうすれば草も自然と静かになる。

殺虫剤は化学製品もバイオ製品も必要ない

デリスという植物の根から作った殺虫剤(Rotenone)は、有機農協会にも認められている自然素材のバイオ製品。でも、このバイオ殺虫剤を使っている有機農業者は少ない。アメリカの農務省の調査では、認定有機農業者の回答者のうち、このバイオ殺虫剤を使っている人は6%もいなかった(American Journal of Alternative Agriculture, Vol. 13, No. 2, 1998)。

「経験長い有機農業者は害虫をあまり気にしない」とあるアメリカの有機農家は言う。「バイオだろうが殺虫剤は使わない。化学肥料や化学殺虫剤を自然素材の有機肥料・有機殺虫剤に代えただけで『有機農』という人もいるけれど、たしかにそこから始める人もいるだろうけれど、それは有機農の本筋ではない」

「バイオ製品や化学製品を使わなくても、有機農で耕作面積辺りの収穫量を増やしたり、害虫の損害も農薬を使うときと同じかそれ以下に押さえられることは、多くの有機農業者が実践している」(アメリカの有機農者)

「草に野菜は負けたことありませんで」と、その農家の人は自信ありげに言い切った。「死の農法をやめた当座は、草も虫も一杯でしたが、こっちは病人でどうすることも出来なんだ。そやけど、草は、よっぽど背の高い草や、根の強い草の他は、野菜の邪魔はしませんで。ハコベはとらん方がええように思います」- 有吉佐和子『複合汚染』1975

栄養からっぽの野菜たち

食べ物の中に何が入っているかわからない今日この頃、自分が口にする食べ物の質と安全性を確保することが自分で食べ物を育てる大きな理由になっている。安心できる種を選び毒物なしの野菜を育てる。でも、栄養たっぷりかどうかはどうやって調べたらいい?


「手づくり企画」の有機農園からの収穫
おいしい野菜が栄養も多いとよく言われる。「自分で野菜を育てれば、味のために育てられる。多くの商業農家は店で長持ちするためにも育てなくちゃいけない」とイギリスの有機農研究所HDRAは言う。

キースは仕事の関係で、有機について何も知らないイラストレーターをHDRAレイトン実験農場へ連れていったことがある。そこの食堂でお昼を食べたとき、有機農で育てられた野菜を食べたイラストレーターはその味に驚いた。「こんなにおいしい野菜は子供のころ以来食べたことがない。最近野菜の味が落ちたのは自分の味覚が鈍くなったからだと思ってたよ」

「手づくり企画」の有機農園で育った野菜を食べた訪問客も、だいたい同じ様なことを言う。味覚は食べ物の質を計る目安の一つにはなる。でも砂糖や化学調味料たっぷりに慣らされた現代人の主観的な味覚だけに頼るのは心もとない。もっと客観的な測定法を使って比べてみたらどうなるか。

Brix(ブリックス)を計る

手軽に作物の栄養度を比べる目安の一つとして、私たちは野菜汁に含まれる糖分の量を調べる手持屈折計(refractometer)を使っている。青菜のかけらをニンニクつぶしで潰し、絞り出した青菜の汁を数滴屈折計のガラス板の上に垂らして、光に透かして中の数値(%)をよむ。その値を標準値や他の場所で育った同じ種類の野菜の値と比べてみる。

植物のミネラルやタンパク質の質と量は、野菜汁(植物の体液)に含まれる糖分の量と比例している。だから安くて手軽に作物の質を比べる目安の一つとして屈折計を使っている。ブリックス値が高い作物は害虫の攻撃にも強い。(ブリックス値と野菜の質についての話はこちら

だいたいの野菜の標準値は調べた結果が「不良」から「優」まで定められている。

ブリックス値の標準値
--不良平均
キャベツ、青菜類6%8%10%12%
レタス4%6%8%10%


芥蘭 Chinese kale (Geoffrey Herklots)
香港ランタオ島の市場での野菜(2000年1月)
白菜 3%
芥蘭(ケールの一種) 5%
菜心(青菜の一種) 5%
レタス 3%

香港の大手スーパー(2000年1月)
白菜 5.5%
菜心  5.5%
芥蘭 7%

中国華南の市場での野菜(2000年1月)
チヒリ(青菜の一種) 3%


白菜 Chinese white cabbage (Geoffrey Herklots)
香港の農村からの野菜(平均値)
白菜 1.5-2.5%
菜心 2-3%

香港ランタオ島での家庭菜園
畑1(無農薬・無化学肥料、土壌管理不良、堆肥なし)
白菜 2.5%
菜心 2%

畑2(無農薬・無化学肥料、土壌管理不良、質の低い堆肥が少量)
白菜 3.5%
菜心 3%

「手づくり企画」の有機農園(2000年1月)
白菜 11%
芥蘭 12.5%
葉ビーツ 9.5%

市販の野菜の栄養度が落ちているのは、なにも香港だけではない。ロンドンやプリマス、グラスゴー、アムステルダム、ストックホルム、ニューヨーク、ケープタウン、ヨハネスバーグでも同じ様な比較をして結果は似たり寄ったりだった。市販の野菜は栄養分が減っている。たまに「平均」か「良」にたどり着くだけで、ほとんどは「不良」か、それにすら至らない野菜も多い。少なくなった栄養分の代わりに市販の野菜に多く含まれているものが何かはご存じの通り。

これが、自分の食べ物を自ら有機農で育てる、一番の理由だと思うけど?

栄養が減っている野菜の調査報告書

最近オーストラリアのOrganic Retailers & Growers Association of Australia (ORGAA)が、慣行農法で育てられた市販の野菜と有機農法で育てられた野菜の栄養分の量を比べてみた。

堆肥を使った土壌管理をしている認定有機農家の畑で豆、トマト、ピーマン、葉ビーツを育て、ビタミンやミネラルの含有量を調べる。比較のため、同じ様な条件で従来の市販用に育てられた野菜をスーパーから購入して分析した。

結果は、圧倒的に有機農野菜が高い栄養値を示した。有機農野菜の方が、カルシウムは8倍、カリウム10倍、マグネシウム7倍、亜鉛は5倍も多い野菜もあった。

---トマトピーマン葉ビーツ
カルシウム 市販406.74.76
カルシウム 有機48067841600
カリウム 市販260200150450
カリウム 有機190030016002600
マグネシウム 市販26101169
マグネシウム 有機240897001700
ナトリウム 市販<12.4<1180
ナトリウム 有機<1026201800
鉄 市販0.6<0.5<0.51.4
鉄 有機<5<5<59.4
亜鉛 市販0.380.190.130.57
亜鉛 有機3.41.22.5130
単位はmg/kg

インターネットに掲載されたプレス・リリースはこちら。
http://www.netspeed.com.au/cogs/Article1.htm

コペンハーゲン大学の研究者たちは、有機農法で育てられた作物が慣行農法で育てられた作物より栄養素を多く含むとの調査結果を発表した。有機農作物にはより多くのビタミンが含まれ、第二代謝物質(植物が外界からの攻撃に抵抗する免疫力を高める物質)も多かった。これらの代謝物質のいくつかは人間のガンや心臓病を防ぐと言われている。この調査はイギリスの土壌協会(Soil Association)の助成を受けて行われ、同会の2000年1月8日の会議にて発表された。
Organic View v.2 n.1 January 23, 2000
http://www.purefood.org/newsletter/organicview21.cfm

有機農運動の先駆者の一人であるイブ・バルファーは、ホーリィ実験農場(Haughley Experiment)において有機農と化学物質投入の効果を比較した。似たような条件の土地を二つにわけ、一方は外部から何も投入せず農場内部の有機物の循環のみで地力を維持する有機農場、もう一方は、有機物を循環させながら加えて化学肥料・農薬・除草剤などを用いた有機化学混合農場。この設定で二つの農場を1939年から運営し、その後33年間に渡り専門科学者による土や農作物、家畜などの成分分析と観察を続けた。

有機化学混合農場の農作物が比較的水分を多く含む傾向が見られたが、それ以外は有機農場も有機化学混合農場も成分分析結果としては大した違いが現れなかった。しかし、収穫の量と効率には大きな違いが見られた。有機農場での牛乳、肉、卵などはの家畜製品は、同じ量の家畜製品を生産するのに必要な餌の量が12〜15%少なくてよかった。有機農場での牧草の育ちはまばらで、有機化学混合農場での牧草の方が大いに茂っていたのに、20年間の牛乳の生産量を比べると、有機農場の方が15%も多く牛乳を生産することができた。有機農場の牛は長生きし、家畜も作物も牧草も病害虫による被害がずっと少なかった。

1977年IFOAMスイス会合におけるイブ・バルファーの演説テキストはこちら。
「Towards a Sustainable Agriculture - The Living Soil」by Lady Eve Balfour, address to IFOAM (International Federation of Organic Agriculture Movements) conference in Switzerland, 1977
http://www.netspeed.com.au/cogs/cogbal.htm
イブ・バルファーの著作『The Living Soil and the Haughley Experiment(生きている土とホーリィ実験)』 by Lady Eve B. Balfour, Faber & Faber, London, 1943.

有機農作物と化学農作物を比較した調査は数多くある。1997年に発行された「Journal of Scientific Food Agriculture(Vol. 74, 281-293)」は、1926年から1994年までに行われた150件の比較調査をまとめた記事を掲載した。アメリカの「Organic Farming Research Foundation」は有機農作物の品質調査報告を46件、「ATTRA (National Center for Appropriate Technology)」は53件、それぞれのホームページに一覧している。
Organic Farming Research Foundation
http://www.ofrf.org
ATTRA
http://www.attra.org/

土のミネラルと化学物質と食べ物の栄養

政府公表の農作物成分データに基づき、現在と数十年前の数値を比べてみると、今日の農産物に含まれる栄養素がずいぶん少なくなっていることがわかった。アメリカの健康問題ライター、アレックス・ジャック(Alex Jack)と、イギリス(現在はアメリカ・コーネルで研究中)のアン・マリー・メイヤー(Anne-Marie Mayer)は、それぞれ別個に、政府発行の作物成分データを使い、生の果物と野菜に含まれるビタミンとミネラルの含有量を数十年前の数値と1990年代の数値を比較分析してみた。二人とも、ほとんどの作物でカルシウムと鉄分がかなり減少していることを発見、ビタミンAやビタミンC、カリウムなど他の栄養素も少なくなっているとそれぞれ発表した。

アメリカ農務省発行の作物成分表を1975年から1997年まで比較分析したジャック氏は、12作物の平均でカルシウムが27%、鉄分37%、ビタミンA21%、そしてビタミンCは30%減少していると報告。「この結果から、耕土、空気、水の質が確実に悪化していること、種の生命力が損なわれミネラルを枯渇させていることが推測される。」とジャック氏は言う。

同じように、イギリスでは1930年から1980年までの栄養成分データを分析したところ、野菜と果物のどちらもかなり栄養分が減っていた。「British Food Journal (1997, vol 99, no. 6, pp 207-211)」に発表された報告によると、20作物が平均してカルシウム19%、鉄分22%、カリウムは14%減少していた。報告者のメイヤー氏は「化学肥料と農薬に頼り、有機物をほとんど土に還元していない農業は、作物のミネラル枯渇を引き起こしていると思われる」と言う。

アメリカで化学窒素肥料が耕土にあたえる影響を37年間継続して調べているウィスコンシン・マディソン大学の研究班は、1999年の報告書で過剰な化学窒素肥料の投入が、アメリカの耕土を修復不可能なほどに痛めつけていると結論づけた。報告書によると、施肥された窒素分のうち作物まで届くのはその半分でしかなく、他の半分はそのまま土に残り硝酸に変化してしまう。窒素の過剰投資は調査対象の30年間だけで、耕地の地力を5000年分使い果たしてしまっているという。

「私たちの食べ物から栄養分がなくなっている。なぜ?」
ロデール研究所から農務省への質問状
「Our Food is Losing Nutrients - Why?」Organic Gardening, Rodale
http://www.organicgardening.com/library/novdec_watchdogusda.html

ポール・バーグナー(Paul Bergner)は、著書『The Healing Power of Minerals, Special Nutrients and Trace Elements』(Prima Publishing, 1997)の中で、1914年から1992年までに果物と野菜の栄養分が減少しているアメリカ農業省公表の数値を表示している。化学肥料が最も多く使われた1963年から1992年の間には、カルシウムは平均30%減少、鉄分32%、マグネシウム21%、リン11%、カリウム6.5%が減少していた。


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