遺伝子組み換え作物 - 食糧に反する動き

アクションエイド』2003年5月
平賀緑 訳

※これはアクションエイド発表の報告書概要を個人的に訳したものです。
<原文>GM crops - going against the grain
http://www.actionaid.org/resources/pdfs/gatg.pdf

概要

世界では今日約8億人の人が充分な食べ物を買ったり栽培したりできないため餓えている。飢餓が蔓延している国に生まれた子どもの7人に1人は5歳に達する前に命を落としている。

この飢餓問題に遺伝子組み換え(GM)作物が解決策であると多くの政府や企業、研究所が盛んに奨励している。GM推奨者はGM技術が食糧生産を増やし、環境悪化を減らし、より栄養価の高い食品を提供し、持続可能な農業を推進すると主張している。しかしGM作物が本当に世界飢餓を緩和することができるのだろうか?

アクションエイドは飢餓問題を適切にとらえ、地元の必要に応じた技術を適用し、基本的人権を向上し、生物多様性を保護し、貧しい人々が正確な情報に基づき選択して参加することによってのみ食糧安全が確保できると信じている。アジア、アフリカ、ラテンアメリカにおける事実に裏付けされたこの報告書は、GM作物はこれらのどの要素も改善しそうにないとの結論に達した。GMを大規模に普及することは、貧しい人たちより裕福な企業にとって利益のある場合が多い。

主な統計

遺伝子組み換え(GM)作物は貧困撲滅の助けとなるか?

遺伝子組み換え農業の発展を押し進めてきた原動力は、貧しい農民のためではなく農業化学業界の利益のためだった。モンサント、シンジェンタ、バイエルクロップサイエンス、デュポンの多国籍企業4社がGM作物の種子市場のほとんどを掌握している。2001年に世界で栽培されたGM作物の91%はモンサント社製の種子だ。自社の化学商品と種子をGM技術によって結びつけることにより、これらの企業は除草剤と殺虫剤製品の市場を拡大してきた。

GM作物は飢餓撲滅に貢献する見込みはない。非GM作物に比べて収穫量は増えそうになく、時にはより多くの農業化学資材を必要とするからだ。GM大豆の収穫は高収量の慣行品種より多くない。ある研究では、モンサント社製のGM大豆の収量は非GM大豆より6%減少し、高収量の非GM大豆より11%減少したことを示している。

GM綿花に使う殺虫剤の量はある地域では減らすことができたが、これは虫の耐性が強まるまでの短い効果かもしれない。生産者はじきに化学薬品を買うためにより多額の投資を必要となるだろう。同じ事が除草剤耐性のGM作物にも言える。生産者がより頻繁に、かつ/もしくはより大量の除草剤を使うため除草剤の使用量は減るどころが増えている。アルゼンチンでは慣行品種と比べ、GM作物における1ヘクタールあたりの除草剤使用量は2倍以上に増加した。

GM作物は食糧危機の政治的および経済的原因である貧困と不平等に対して効果がない。貧しい農民たちを圧迫している土地や水資源、エネルギー、負担できる程度のローン、農業訓練、地元の市場、交通設備、店舗や施設などの欠如という貧困の主要原因にGM技術は取り組んでいない。逆に、GM技術はコストが非常に高いため、農民を借金に陥れ、小規模生産者にとって壊滅的な危害を与える可能性がある。

GM技術は貧しい農民たちの必要性に応えているか?

GM品種は貧しい農民たちの必要に応える物ではない。貧しい農民たちは自分たちでも経費を負担できる既存の種子、そして環境や消費、生産面での多様な必要に適した幅広い作物品種の種子に依存している。貧困社会が投資を必要としているのは、低コスト、少出費で、農民の知識に基づいた農民中心の技術だ。GM種子はそのまったく逆で、換金作物を単一的に大規模栽培する商業的農業生産者を対象としている。GM作物は貧しい農民や発展途上国の限られた資源を無駄にし、食糧安全を脅かす恐れがある。

GM農業の研究と開発のほとんどは民間企業が行っている。すべてのGM研究のうち、貧しい農民のために行われている研究は1%以下しかない。

例えばアフリカにおけるGM研究は切り花や果物、野菜、綿花、たばこなどのような輸出用作物に集中している。これらはケニヤや南アフリカ、ジンバブエの商業用プランテーションで大規模に栽培されている作物だ。ケニヤでは植物に関する申請特許のうち、食用作物に関する申請は136件に1件しかない。半分以上の申請特許はバラに関する物だ。

GM作物は農民たちの基本的権利を脅かすのではないか?

途上国の農民たちは種子を採り、交換し、収穫を次の栽培につなげる高度に発達したシステムを築き上げてきた。長年かけて築かれた自家採種と種子交換により農民たちは低コストかつ効率的に生活の糧を確保してきた。しかし特許に守られたGM種子はこれらの農民の権利と慣習を崩す恐れがあり、種子の供給源を横取りもしくは汚染する恐れがあり、企業が独占的に牛耳る農業資源に農民たちが依存しなくてはならない恐れがある。

世界では14億人もの人々が自家採種した種子に依存している。その90%まではアフリカの農民、その多くは女性が種子を保存して生活を支えている。しかしGM種子に伴う知的所有権体制の増殖は数世紀に渡り築かれてきた採種と種子交換の慣習を脅かしている。

ほとんどのGM種子は栽培ごとに新しく購入しなければならない。種子を購入し使う前に、生産者は企業に対して特許料もしくは技術料を支払い、種子を採種もしくは再播種しないと誓い、その栽培には同社製の化学資材を使い、契約が守られているかどうかを企業が自由に調べに来ることができるとの契約を結ばなくてはならない。

種子と農薬を外部から購入しなければならないことだけで、農民たちは経済的にも農業的にもより大きく企業に依存することになる。ローンを借りられない貧しい農民たちにとって、技術料は種子の購入を妨げる。契約は複雑なため誤解されやすく、農民たち、特に教育を受けられなかった農民たちにとって理解しがたい物だ。

バイオテク産業はますます巧妙なGM技術を開発し続けている。採種して再播種すると収穫が得られない不妊性の種子を生み出す「ターミネーター」と呼ばれる技術などはその一例だ。

GM作物は生物多様性を脅かすか?

GM作物は貧しい農民の生活と途上国の食糧に対する主権の基盤である農業作物の多様性を脅かす。商業的・輸出向け農業はより均一的なグローバル市場のために限られた品種の作物を単作で大規模に栽培する農業を押し進めたため、1900年以来農民の畑から農業作物原種の4分の3が消滅してしまった。GM作物はさらに生物多様性を侵食しようとしている。

加えてGM作物は他の植物や虫に影響を与える恐れが指摘されている。GM作物は非GM作物と交配し、特に途上国で豊富な原種を侵食する。草や虫が農薬への耐性を強めるにつれ、GM作物はより大量の農薬をより頻繁に散布しなければならなくなると言われている。GM作物は益虫を脅かして自然的な害虫管理システムを崩壊するだろう。医学的な目的のために開発されたGM作物は容易に地元の人たちの食糧に進入する恐れがある。

バイオセーフティに関する規制がこれらの問題や生物多様性への脅威をある程度防ぐことはできるかも知れない。しかし多くの国はこのような規制を持たず、またその規制を築く能力がない。ザンビアでは政策作成の経験も遺伝子組み換え技術に関する知識もないスタッフ1人が国のバイオセーフティ方針を書き上げる責務を担っている。

たとえ規制があったとしても、国にリスクを評価し監視する資源も能力も乏しい国では規制が効果をなしていない。ブラジルではGM作物の商業的栽培が禁止されているにもかかわらずアルゼンチンから持ち込まれたGM大豆が厖大な地域で栽培されていた。パキスタンでは不法に栽培されたGM綿花による影響をアクションエイドが調査している。収穫を増やす「魔法的な種子」だと言われ闇市場でGM種子を買った数百人もの農民たちは、収穫の約70%を失う大損害を被った。

GM作物は正しい情報に基づく選択と意志決定への貧しい人々の参加を促すか?

途上国の政府はGM作物を受け入れ、わずかしかない国の資源をGM研究に費やし、バイオテク企業に自国を開放する強大な圧力に押されている。途上国政府は自国の国民が正しい情報を知らされ、国民の意見を聞き、GM作物を受け入れるか拒絶するかに合意する前に、企業に門戸開放することを迫られている。貧しい農民や地域社会はGM技術に関する議論と意志決定から排除されている。

例えば南アフリカでは、国民の意見を聞くことなく、国民が決定に参加することなく、また環境への影響を充分調査することなく、GM作物が植えられてきた。

政府などの公共機関がGM研究を行う場合でも、貧しい農民の必要性に応えるための研究ではないことが多い。ほとんどの遺伝子資源や遺伝子操作に関する特許は企業に握られているからだ。公共研究機関と民間企業の合同研究においても、コントロールと意志決定は新しい市場を開拓し企業イメージを向上することを目的としている企業がしっかりと握っていることが多い。

もし貧しい人々が農業研究の方向付けに参加することができたならば、GM技術ではなく、他の農業システムを選ぶだろう。

結論

大規模にGM作物を導入することは、食糧危機の根本原因を悪化させ、飢餓を緩和するどころか餓える人々を増やすだろう。貧困を持続的に緩和するため、政策決定者は飢餓を緩和する実証がない危険な技術を許容するのではなく、貧困社会が直面している真の圧迫要素 - 土地やローン、資源や市場へのアクセスの欠如 - を排除することをアクションエイドは勧告する。

報告書の原文(英語)はこちらからダウンロードできます。
アクションエイド『GM crops - going against the grain』
http://www.actionaid.org/resources/pdfs/gatg.pdf


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