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2001年7月13日
Food Firstニュースレターより

遺伝子組み換えに対する国連の大きな誤り

<原題> U.N. Dead Wrong About Engineered Crops

『食糧第一』食糧と開発のための政策研究所(Food First/Institute for Food and Development Policy)
共同代表 Anuradha Mittal 著


先ほど国連開発計画(UNDP)が発表した「人間開発報告書2001」および関連記者会見が遺伝子組み換え作物について述べた内容は「北」の人間の傲慢さを表す非常に残念な物だった。

報告書の著者によると、富裕国の人たちは遺伝子組み換え(GE) 食品に対する不安を脇に退け、途上国の人たちがバイオテクノロジーの可能性を享受するのを助けてあげるべきだと述べている。UNDPのマーク・マロック・ブラウン総裁はこの報告書は第三世界のニーズに関する重要な意見に挑戦し新しい方向性を示した物として高く評価した。しかしインド国民の一人として質問したい。いったいだれが第三世界の人たちのニーズを代弁するようブラウン氏をUNDP総裁に任命したというのか?

UNDPの報告書は、遺伝子組み換え食品に反対している人たちは第三世界の食糧需要を無視していると非難している。報告書はさらにGE反対の動きは富裕国の保護論者たちが牛耳っており、現在の反対論は途上国のニーズも途上国への配慮もおおむね無視していると述べている。お腹を空かすことも栄養不足に悩むこともなく、畑で農作業に携わることもない「西」の消費者は食の安全性と生物多様性のみを心配している。しかし途上国の農民たちは遺伝子組み換え作物により収穫が増加することや栄養価が高まることの可能性を強調しているのだと報告書は述べている。

明らかに、UNDPとブラウン氏は与えられた課題の一部分しかこなしていない。この報告書をまとめるにあたりアメリカやヨーロッパ諸国における遺伝子組み換え作物に関する議論は調べたようだが、第三世界でわき上がっているより大きな議論を無視してしまった。例えば私の出身国であるインドでは、技術的解決策に偏りがちなアメリカ帰りのテクノクラートに対し、農民集団や消費者は大きく遺伝子組み換え作物への反対の声を上げている。実際に遺伝子組み換え作物の種を植え、実際に遺伝子組み換え食品を口にする人たちが「絶対反対」していることは、当然考慮すべき議論だと思うのだが?

UNDPの報告書はさらにアメリカ合衆国のような国が過剰生産に悩まされながら国民の3,600万人もが充分な食糧にありつけず、数百万人もの農場労働者が国内の農地で働いていることも無視している。そしてアメリカの全国民がすでに表示なしの遺伝子組み換え食品の消費者とされていることも。

いつも呪文のように唱え続けられている「ミラクル技術が飢餓問題を解決する」との古い神話をこの報告書は繰り返している。ある時は除草剤を推奨し、ある時は遺伝子組み換えを推奨する呪文を。有名な「緑の革命」は北の技術を南に持ち込み、南の土地と大気と水を汚染させた代償の上に食糧の収穫量を増やしたかもしれないが、それでも飢餓問題を改善はしなかった。今日世界に8億人いる飢餓人口の内、2.5〜3億人はインドにいると推測されている。これだけの国民が飢餓状態にいるからといって、インドに食糧が不足しているわけではない。インドは国民全員を養うのに充分な量の食糧を生産しているが、貧しい労働者を切り捨てる政策--例えばIMFなど北の機関からの命令により社会福祉費用などを削減した結果が今日の飢餓問題の根本的な原因だ。

昨年インドでは6,000万トンの食用穀物が売れないまま腐ってしまった。お腹を空かせた人たちは、食べ物を目の当たりにしながらもお金がなくて買うことができなかった。農民たちはせっかく栽培したのに売れなかった穀物に火を放ち、収入が得られなかったため自分の腎臓などを売ったり、貧困に耐えかねて自殺したりした。このような状況の中、たとえ遺伝子組み換え作物が収穫を増やしたとしても何の役にも立ちはしない。インドの貧しい人々が1日2食を満足に買うお金がないとき、ビタミンAが増強された遺伝子組み換え米などもっと高価な食べ物をどうして買うことができるだろうか? 技術的な「解決策」はこの状況を改善することはできない。政策的な対策が必要なのだから。

人間開発報告書は遺伝子組み換え食品を禁止しようとする動きを、人体と環境にとって有害だけどマラリアを駆除するには効果があるDDTを禁止する動きと比較している。そのとき第三世界に提示された選択肢はDDTによる死かマラリアによる死かのみだった。今日でも「北」が開発問題を議論するとき、第三世界に餓えによる死か、生活基盤を失うことによる死か、危険な食べ物による死か、それだけの選択肢しか残さないとはぞっとする。

DDTの使用が議論されたとき、北の人々は南からの叫びを無視してしまった。南の人々は「もし私たちの健康福祉予算がカットされなければ、マラリアに対して別の対策を取ることができたのに」と叫んでいたのに。飢餓と同じように、マラリアも貧困がもたらす病気だ。米国やイタリアにおける経験が証明しているように、経済状況が向上すればマラリアは自然と姿を消す。なぜ、貧困の根元的な原因がいつも見逃され、貧困が引き起こした表面的な症状ばかりが注目されるのだろうか。UNDPは再び貧困の根元的な原因ではなく、その表面的な症状のみに注目している。

第三世界の人々に影響を与えることを富裕国の保守論者だけに決断させるべきではないことは正しい。この問題は企業の擁護者であるブラウン氏のような人にリードさせるべきでもない。第三世界の市民からわき上がる遺伝子組み換え反対の議論に耳を傾けることはUNDP自体に良い結果をもたらすだろう。第三世界の市民たちは自分たちのフードシステムが企業に牛耳られることを心配しており、地域の生物多様性や伝統的な作物種子が企業にコントロールされ奪われるのを心配しており、スリランカやタイ、ブラジル、メキシコ、中国などの第三世界諸国は遺伝子組み換え作物にモラトリアムを実施している。もしUNDPが第三世界のために行動するつもりなら、第三世界の国々の自治的な意志を尊重する方がよりよい結果を生み出すことができる。


(「食糧第一:食糧と開発のための政策研究所(Food First/The Institute for Food and Development Policy)」代表 Anuradha Mittal著。Mittal氏はインド出身。)

Food First 日本語サイト文責
平賀緑
手づくり企画「ジャーニー・トゥ・フォーエバー」
http://journeytoforever.org/jp/

<関連ページ>

遺伝子組み換え作物は第三世界の貧困と飢餓と低生産の解決策となりうるか?
Genetic Engineering of Food Crops for the Third World:
An Appropriate Response to Poverty, Hunger and Lagging Productivity?

「食糧第一」による「バイオテクノロジー・遺伝子組み換え技術」特集ページ
ここから膨大な量の資料にリンクしています。

日本語の「人間開発報告書2001年」の発表についておよび概要。
http://www.undp.or.jp/HDR/hdr2001jsum.htm

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