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食生活と身体の退化
未開人の食事と近代食・その影響の比較研究
ウェストン A. プライス、
片山恒夫 訳
First published in 1939
Seventh printing (Heritage Edition), 1972
日本語訳 初版第1刷発行 1978年12月20日
日本語版翻訳出版権所有者 片山恒夫 (c)1978 Tsuneo Katayama
発行所・購入先 豊歯会刊行部
大阪府豊中市岡町北3-1-20 Tel/Fax 06-6852-0446
序論
ウェストン・A・プライス
本書は、現代の退化現象にみられる若干の問題に対して新しいアプローチを呈示しようとするものである。退化の諸形態を分析するというおきまりの方法に代えて、私は、退化の影響をほとんど受けていない集団を、比較のための対照集団に見立てた調査研究を進めてきたのである。
臨床的な方法と実験的な方法を併用しながら数年間にわたってこの問題にとりくんだ結果、私たちの今日の食生活には、なにか有害な要因が存在しているというより、むしろいくつかの本質的な要因が欠落していると解釈できるような証拠が、数多く集められたのである。こうなれば、つぎに必要なのは適当な対照集団を見つけ出すこと以外にない。このためには世界各地に孤立した形で残存している未開種族で、しかも退化に対する免疫をもった集団を探出すことが必要になったのである。さて、これらの集団を注意深く調査した結果、その集団が近代文明から十分に隔絶され、しかも、その集団の伝統的な知恵の教えるところに従って食生活を送っている場合にかぎり、私たちの多くの重い病に対して強い免疫のあることが判明したのであった。ところが、同一種族の中でも文明からのこうした隔絶を失い、近代文明の食物や食習慣を身につけた者のいることが確認できた地域では、必ずといっていいほど、孤立した集団に見られるあの強い免疫性は、とうの昔に消失していたのである。この研究では、孤立した集団の食物だけでなく、それに代って近代文明とともに現われた新しい食物の化学分析をも行なっている。
この調査研究は、孤立した集団と近代化した集団の双方をともに含んだつぎにかかげる未開種族について行なわれた。スイス人、内・外ヘブリジーズ諸島のゲール人、アラスカ・エスキモー、カナダの最北部・西部と中部のインディアンたち、およびアメリカ西部・フロリダのインディアン諸部族、南太平洋の八群島に住むメラネシア人とポリネシア人、アフリカ東部と中部の諸部族、オーストラリアの原住民、オーストラリア北方の島々に住むマレー人、ニュージーランドのマオリ族、そしてシェラ山脈と太平洋沿岸のペルーおよびアマゾン流域に住む古代文明人とその子孫たちである。それに加えて、これらの地域に住んで文明生活を送る白人についても、調査が可能なかぎり研究した。
調査研究が進むにつれ、はじめは期待していなかったような研究上の多くの重要な進展も見られた。当初の目的である虫歯の原因究明は、栄養状態に影響される事が解ったのだが、ところが、実際には、歯にかかわる一連の障害が様々な未開種族の中でも進行しており、近代的な食事法を採用したすぐ後に生まれた第一世代においてさえ、それが始まっていること、そしてこうした障害は、欧米の近代文明に特徴的な退化過程とまったく同様な現われ方で、容赦なく急速に増大していること、こういった事実が直ちに明らかになったのである。また虫歯というものが、病状の進行している最中やそれ以前の個々人の食事とほぼ完全に相関していることは立証済みのことだが、虫歯の影響による一連の症候は身体の形態にも及ぶものなのである。この症候には、以前には異族婚の結果であると考えられていた顔や歯列弓の形態上の変化も含まれている。私の調査研究によって、異族婚が行なわれず、血の純粋性を保っている人種の場合にも、同じような奇形が起こりうることが明らかになった。また実際に、両親が近代的な食物をとることになった後で生まれた子どもにも、このような変化が起こるのである。
この方法をアメリカの家族に適用してみれば、この国のかなりの数にのぼる家族において年少者にこれと同じ退化現象がみられることにすぐ気がつく。私が研究したアメリカの諸地域では、この種の病気にかかっている人の割合は、通常25%から75%までの幅を持っていた。この疾病者たちの何割かは、身体的な症状だけでなく精神的な障害もあわせもっていた。そして精神障害をもつ者にもっとも一般的に見られる特徴は知能が低く知的鋭敏さに欠けている点であり、彼らはおもに、級友たちについていけない児童をも含めたいわゆる「知恵遅れの子ども」とみなされている。彼らの知能指数は一般に正常児より低いため、彼らはそのハンディキャップのせいで劣等感を抱きやすい。こうしたグループやそれに類するグループでは、何割かの者が非社会的特性という形でよく現われる性格上の障害を引き起こす。彼らの中には、非行少年も含まれており、今日、その数が増大したことによってひじょうに大きなトラブルや問題が起ってきている。後者のグループについては、物心のつく年頃に達してから味わった、それ以後の行動を条件づける生活体験というものを基礎にして説明がなされてきた。私の研究のねらいは、第一に身体の構造変化、第二に、その後の行動を条件づける環境の影響といったものに先行し、かつ、それらの背後に横たわっている、器質的要因を明らかにすることにある。政府のある調査は、最高の施設で保護され更生した非行者のうち66%が後年、非社会的、犯罪的傾向を現わすと指摘しているが、この事実は、もし予防措置がとられるべきだとしたら、それは彼らの一番最初の非行よりも前に機先を制する形で案施されなければならないという、さしせまった必要性を雄弁に物語っているといえよう。
ある障害が胎児期における母親の不適切な食事に直接関係づけられるものであることは周知の通りであるが、他方、私の調査研究は、この問題が両親によって与えられた生殖質の欠陥というところまで遠く遡ることを証明している。したがって、これらの障害は妊娠する以前の両親の少なくとも一方の身体的条件に面接関係しているのである。
この研究にとって重要な意味をもつ課題の一つは、こうした障害が起こるのは両親の健康状態と栄養状態が悪いためであるという通念が、各地の未開種族に存在していることを証拠づけるような情報を、各種族から入手することであった。実際、特別な食事を一定期間とらない女子には結婚が許されないといった規範をもった集団も多く見出された。たとえばある種族の場合には、結婚前に必要とされるこの特別期間が6ヶ月と定められていた。その献立を検討してみると上に述べた障害を防止するような特別な栄養素が浮かび上がってきたのである。
このように、この研究が扱っている問題領域は、医学や歯学を中心とする様々な医療関係部門や、体質改善に携わっている社会機関など、多くの分野で直接の関心事となっている。同様に、もし私たちが若い世代の両親たちにこうした新しい情報を伝えることによって旧習を改めようとするのであるならば、取り返しがつかないような事態になってからそんなことをしても遅すぎる。この意味からすれば、問題は教育機関にも直接関係するはずである。これには高等学校の年代の若者を特に対象とするような教育制度も含まれる。
以下の章で示されるデータは、近代的な社会組織が持つ多くの問題に関して考え方を方向転換する必要のあることを示唆している。遺伝のもつ力は、一般に、環境がもたらすあらゆる影響や変化に抵抗しうるほど強いものだとみなされてきた。科学的データを前にした今、我々がこれまで遺伝によるものだと解釈してきた多くの事柄は、実は、遺伝が妨害された結果起ったものであることが明らかになった。個人の性格に対する環境の影響というものが大いに強調されてきたが、身体の形態に変化が生じるのも、やはり性格と同じような多くの影響によるものと、一般には考えられてきた。脳についていえば、失望とか驚愕とかいった個人の生活上の出来事が、行動を狂わす大きな原因となる場合を除けば、たいていの人間では、みんなと同じようにうまい具合に組織されていると考えられていたのである。つまり、正常な脳の機能は、消化機能のように生物学的なものであるとは考えられてこなかった。しかしこのあとの諸章のデータをみれば明らかなように、頭蓋骨の発達障害に伴って、それと同時に脳の発達にも障害が起こるようである。こういった構造上の欠陥は、たとえそれが他の家族成員や両親に見られるものとしても、普通遺伝的な要因によるものではない。それらは祖先から受け継いだ遺伝形質の産物というより、むしろ環境の産物なのである。
これらのデータによれば、母体内の条件の良し悪しと同様、両親の生殖細胞の質如何という問題が、新たに重要な意味をおびてくる。この問題の登場によって、障害を生みだす要因として両親も深く関係していること、そして欠陥のある生殖細胞をつくったという点では、父親も母親も等しく責任を負わねばならないことがはっきりする。今の世代の身体の形態にみられる弯曲や欠陥の多くは混血に起因しているという理由から、異族婚は良くないものとされてきた。しかし、この研究で取り扱った混血のまったくみられない純粋な種族においても、両親の食事が変化してすぐ後で生まれた第一世代においてさえ、顔かたちの変化が起こることがわかったのである。
パーソナリティーや性格の起源は通常純粋に遺伝的な特性にあると考えられているが、より新しいデータに照らしてみると遺伝の影響はそれよりはるかに小さいものであって、パーソナリティーや性格も実際は後天的で生物学的な産物である。これらの様々な要因は両親の食生活とか、胎児期や発育期に各人が置かれている食生活環境に、直接関係するという生物学的なものである。大多数の人々にみられる退化も、したがって地力の消耗による栄養不良といった共通要因が一つの原因となっていると見なされるようになるだろう。それゆえ、この新しいデータのもとでは、集団的に観察される傾向は自然のもつ諸力がもたらした結果なのである。ただしこうした言い方は、宣伝文句によって誇張されてはならないのであって、事実に即して正しく述べることが肝要である。自然は数億年にわたって人間の文化の形成過程に寄与してきた。そして私たちの文化は、拠り所とする自らの文化的経験ばかりでなく、過去に生きていた人間の経験のほか、今日共存している他の諸民族の経験をも含んでいる。したがって本研究では、いわば大自然が行なった他の多くの生物学的実験から得られたデータも取り入れているが、これも今日の白人文明が抱える諸問題に何とかして光明を与えたいという願いからなのである。
例証のためには、私は惜しまず写真を利用している。適切な写真の引例はテキストの一千語に匹敵すると言われるよ。これは最近のジャーナリズムにみられる風潮にいみじくも合致している。写真は言葉で表現するより一層説得力があり、しかもこの本が、今日提出されている歯科に関する多くの理論に対して挑戦的な性格をもっているため、説明に耐えうるもっとも確実な証拠が是非必要なのである。
私の持っているスライドや写真ネガを借り受けたいという数多くの要望に応ずるため、限られた枚数ではあるけれど白黒やカラーで撮った資料のスライドを貸与する準備も進行している。歯科以外の問題に関係するスライドの用意もある。
目次
翻訳出版によせて (木所正直)
序文 (梅棹忠夫)
序にかえて (丸山博)
推薦のことば (橋本正己)
図一覧
序 (ウェストン・A・プライス)
序文 (アーネスト・A・フートン)
ヘリティジ版(決定上製版)への序 (グランビル・F・ナイト)
序論
1. なぜ未開種族から学ぶのか
2. 衰退の一途を辿る近代文明
3. スイス:孤立した住民と近代化した住民
4. ゲール族:孤立した住民と近代化した住民
5. エスキモー:孤立した住民と近代化した住民
6. 北米インディアン:孤立した住民と近代化した住民
7. メラネシア人:孤立した住民と近代化した住民
8. ポリネシア人:孤立した住民と近代化した住民
9. アフリカ諸種族:孤立した住民と近代化した住民
10. オーストラリア原住民:孤立した住民と近代化した住民
11. トレス海峡諸島:孤立した住民と近代化した住民
12. ニュージーランド・マオリ族:孤立した住民と近代化した住民
13. ペルーの古代文明人
14. ペルー・インディアン:孤立した住民と近代化した住民
15. 近代食と未開食の特徴
16. 未開人の虫歯予防法
17. 身体的変形の原因
18. 胎児の栄養的欠陥とその病種
19. 肉体、精神と道徳の荒廃
20. 土壌の消耗と動植物の退化
21. 原住民の知恵の実際的応用
増補目次
増補への序文 (ウェストン・A・プライス)
増補によせて (Wm・A・アルブレヒト)
22. ビタミンに類似した新賦活剤
23. 食物は土壌の肥沃さに支えられる (Wm・A・アルブレヒト)
24. 動植物の成長とフッ素
25. 母なる自然はいかにして我々を造り給うたか
26. 近代における退化の初段階
27. 人類の復興をはかる食事計画
28. 教育による社会改革
結び 我々のもつ対立する二つの大問題は解決されるだろうか
訳者あとがき次のページ 第1章 なぜ未開種族から学ぶのか
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