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第21章 原住民の知恵の実際的応用(後半)
頭の骨の発育障害と全身の体型の発達障害がどのように現われるかといえば、それはいつも決まったように頭も顔も身体全体が細身になり、背丈が伸びるという結果なのである。最近の2、30年の間に女子の身長が高くなっていることを示す統計が発表されている。この身長の増加は上記の変化が事実体型に現われてきたわけであって、たぶん、良い徴候というよりは好ましからざる徴候であろう。婦人科医連中の話によれば骨盤が狭いということは、近代人が出産する場合難産が増加しているその原因の一つに、この要因が考えられている。
骨盤の発達不良と顔の奇形との間の関係を説明する典型例が図134に示されている。この女の子は顔の下3分の1の部分、すなわち下顎の発達が著しく遅れており、そのために上の歯が突出するという状態を造り出し唇で歯を覆うことが困難、あるいは不可能になるぐらいであった。その状態をよくするための手術は、まず上顎両側の第一小臼歯を抜き、次に抜いた2本の幅だけ器具で骨を動かしながら前歯を奥へ押し込むという矯正法であった。これによって、図134の上の2枚の写真からもわかるように歯相互の関係は一変した。手術は彼女の顔の外見を大きく改良し、他の若者との交友を妨げていた彼女の劣等感もなくなった。その彼女が最初の子を生むために病院へ行った時、特に心臓の弱いことが問題となって、帝王切開によらないで何とか正常分娩で出産できるようあらゆる手が尽くされたのであった。しかしこれは不可能であることがわかったので結局帝王切開手術が施された。母親と子どもの生命を救うためにそれはもうたいへんな努力が払われた。彼女の自慢の種でありそれ自体重度の奇形の一部でもあった彼女の男っぽい容姿はほとんど彼女の形成期における不運に起因していた。彼女はある期間その子を育てたが、かよわい身体には出産の荷はあまりにも重すぎたので彼女は急速に老けていき、背中は曲がり、図134の右下のように前屈みの姿勢になってしまった。左下の写真から歯の方は新しい位置にちゃんと残っていることがわかるだろう。彼女の身体的欠陥は、母親の子宮内で成長していく時期と母親の妊娠前の期間に、母親が十分栄養を摂っていなかったことが多分直接の原因となっているという点を心に留めておかねばならない。もちろん父親の方が、子どもの体型障害に影響を与える病気もちの生殖細胞を提供する可能性もある。このことと関連して、赤ん坊の骨を柔かくして楽な出産ができるよう未来の母親が綿密な減食計画を実行する場合、その影響がいかに悲劇的なものであるか留意しておくことが重要である。これを成功させるために効果があるという食品を紹介している本が出版されたことがある。しかしこんなことをすれば、子どもの将来を破滅させるような身体的障害を背負わせることになるにちがいない。
図134 上の少女には顔に重度の奇形が現われている。骨盤もひじょうに狭かった。しかし、下の写真に見られるように顔の奇形は治せた。帝王切開手術をした第一子の出産の時には、命がもたないのではないかと危ぶまれた。この出産の重荷から、背骨がひどく奇形してしまった点に注目してほしい。
妊婦に必要なのは通常の時より多量のカルシウムやビタミンDであることは、いろいろな筋からの情報が教えるところである。だから妊婦は、医師の処方に従ってあるいは自分の考えでもって、カルシウム錠とか、いわゆるビタミンD合成調合剤とかを買い求めに薬局へ出かけるだろう。この場合私たちが関心をもつのは、近代社会の母親がこのようにして自分自身に施している処方の効果を、未開社会の母親が食事のなかで予防している方法の効果と比較対照できるようなデータである。
コロンブス病院とオハイオ病院で医療に携っているワイン・ブレーム博士は、最近投薬療法の効果についての研究結果を発表した(5)。それは、それぞれ90人からなる6つのグループに分けられた合計540の産科症例に対して、処方の相違による効果の比較研究をするため、各グループ毎に違った栄養強化の方法をとるというものだった。グループ一の強化法は、カルシウムとビオステロールのようなビタミンD合成剤の投与である。グループ二に対してはカルシウムだけ、グループ三はビオステロールだけ、グループ四はカルシウムと肝油、グループ五は肝油のみ、グループ六に対しては何らの栄養強化もしなかりた。第一のカルシウムとビオステロールのグループでは、胎盤に広範な石灰性物質の沈着がみられ、泉門(顋門・ひよめき)〔幼児の頭蓋骨の上部にみられる正常な開口〕が異常に閉鎖しており、腎臓も顕著な石灰性物質の沈着があった。カルシウムだけのグループでは、上にみたような胎盤の石灰化はなく泉門はやや閉じ気味で、腎臓の石灰化現象もみられなかった。ビオステロールの第三グループでは、著しい胎盤の石灰化は中和され、泉門の閉鎖も腎臓の石灰化もなかった。肝油だけの第五グループでは、胎盤の石灰化と泉門の閉鎖がわずかにみられ、腎臓の石灰化はない。まったく強化しなかった最後のグループでは、ほんのわずか胎盤が石灰化していたが、泉門は正常で腎臓も上のような変調はなかった。第一のグループに関してその栄養強化による母親への影響としては、出産時の幼児の頭と顔の形が産道の形にうまく合うように形づくられていなかったために、分娩にかかる時間が長くなったことが挙げられる。これらの新生児たちは骨化とか容貌は晩熟の様相を呈していた。この事実は、近代的な合成薬品の代わりに大自然の恵みである自然食を使用することが望ましいことを雄弁に物語っている。
生殖作用や出産の一番深刻な障害が世界のなかでも一番近代化した地域に生じているということはひじょうに重要な問題である。第19章で私はキャスリーン・バーガン博士の『安全な出産』と題された貴重な研究について言及した。女史はインドに住む数種族の社会のなかや英国病院で仕事をしてきた医療経験豊富な人物であるばかりでなく、世界各地の多数の種族についての体験に関する厖大な資料の収集家でもある。彼女が提示したデータは、成長期にある少女には、身体の形成が終わる14歳頃までの期間と出産期の間に、活発な屋外生活をさせる必要があることを雄弁に物語っている。実際、あらゆる国での、座りがちで行動範囲の狭い室内生活が、出産に伴う合併症の増加をもたらしている。その影響については彼女はウィトリッジ・ウィリアム氏の研究を引用して次のように述べている。「妊娠当初は女性100に対して男性は125で、性の決定は受精後の生殖細胞のなかで第一次的、直接的に行なわれ、受精卵の細胞分裂が始まってもそれは変わらないと、彼は付け加えている」にもかかわらず、このような男性の優越性は、胎児期と出生直後の死亡率のために男児数を女児数よりも低い比率にしてしまう。バーガン博士は厚生省の医務局長の手になる年次報告の数字を引用して以下のように述べる。
わが国の幼児の死亡率統計によれば、生後1年以内で死んだ子どものうち、半数以上は、生後1ヶ月も生きないうちに死亡した(そのうちの6744人が24時間以内の死亡者数である)ということになり、幼児の生命力が誕生の過程で損われたことがはっきりみてとれる。1ヶ月も生きながらえなかった者の数は2万60人で、その半数以上が男児だった。だから我々は1歳未満の男の子を毎年1万人以上失なっているわけだ(国民健康報告、No.55、イギリス)。ピーター・マッキンリー博士がこの問題について、いっているところを聞いてみよう。「誕生直後における幼児の死亡率は生まれて数年後の死亡率の9倍にもなる」。博士は、分娩に際して母親が難産を体験することが、いかに誕生時やその直後に幼児を死に導くかを明らかにし、それに関連して次のようにも言っている。「1ヶ月未満の幼児の死亡には、出産時の母親の死亡率と重要な意味をもって関連している」。彼は、死産が難産に起因しており、男児の死産が女児よりも多いことを明らかにしたオランダの統計を引用して次のように言う。「こうした数字は、分娩の際に男児の頭の大きさが女児よりも大きいことが、女児の出産よりいくらか面倒にしている一つの原因であるという見方を支持しているように思われる」。さてこう考えてくると、文明社会の分娩において、人口の男女比を最終的に決定する操作室はまさしくここにあるのである。なぜかといえば、実際に生まれる時は男女ともほぼ同数で生まれてくるのであるが、小さい胎児はなんなく通り抜けるのに比べ、より大きな男児は死んだり、重度の障害を残すほど損傷されたりする。そのために著しく女性人口が過剰になる結果が残るのである。毎日毎日、毎年毎年継続しているこの男児の死亡の規模たるや、第一次大戦の犠牲者もかすむほどのものである。わが国の女性優位の人口構成(現在では男性人口に優ること150万人以上になんなんとしている)は以上のことに直接起因している。我々現代人はファラオのように助産婦たちに男の子だったら殺せと命じる必要はない(出エジプト記、第1章、16)。文明はそれを誰の助けも借りないでやってのけているのである。その証拠に、あらゆる文明種族は発展の絶頂を過ぎて下り坂にかかってくると、きまって女性が男性の数より多くなるという同一問題に直面せざるを得なくなり、東洋で今日行なっているのと同じように彼ら諸民族の大多数は、女児を間引くという方法によって対処してきたのである。もっと賢い方法を考えるとすれば、それは出産時における男児の死亡をくい止めるようにすることだろう。難産は、母体の高い死亡率につながるだけでなく、男児にひじょうに重い負担がかかっている男児の高死亡率の原因であるし、その数を増し続けつつある精神的諸障害を生み出す原因にもなっていることを我々は知っているからである。バーガン博士の研究は人間の身体、特に将来母親となるべき少女の身体が正しく形成される必要性を強調している。彼女は骨盤の形状が生活や栄養摂取の仕方によって決まることを明確に示している。屋外生活を送っているすべての未開種族では出産は楽で陣痛の時間も短い。これは丸みのある骨盤のせいであり、骨盤がちょっとでも変形して平板であったり腎臓のような形をしていたりすると、その機能が大きく低下し、したがって幼児の頭部が産道を通り抜けにくくなるということを、彼女は明らかにしている。バーガン博士は自らの豊富な経験のなかから、骨盤の形状と機能をだいたい予測するための2つの方法を見つけ出した。第一は、本人の歩きぶりから予測する方法で、これは2つのおしりの角度が骨盤の形状によって決まるからである。第二の方法は、歯と顎から予測するやり方である。顔や歯列弓の奇形と骨盤の奇形には関係があることがわかったからである。
私は西オーストラリアで調査した時、広い地域にわたって、しかも、子どものいない家庭や1人の子どもしか生めない婦人が多いといわれるほどに、白人社会の出生率が減少してきたことを教えられた。この地域で使用していた食物はだいたいが精白小麦粉を使った食品、砂糖、精白米、植物性脂肪、缶詰食品、それにわずかな量の肉であった。オーストラリアにおける出生率の減少について最近警告を発したのは、オーストラリア、シドニー発、1938年8月1日付の『アソシェーテッド・プレス』紙上に紹介されているニュー・サウス・ウェールズ州議会での論議だった。「本日ニュー・サウス・ウェールズ州議会においてオーストラリアの低下していく出生率を高めるために賭金付きの"こうのとりのダービー''が提案された」という内容の記事である。
ワシントンにある農林省の国内経済局からちょうど今届いた報告書には、合衆国における収入階層別、地域別にみた各食品の平均使用量の統計が載っている。それによると一般的にいって所得の3分の1に相当する2500ドルが1家庭当たり食費として支出されていた。また1人当たりの1日の小麦粉使用量は少ない人で0.39ポンド、多い人で0.50ポンドとなっている。これは毎日1人の人間におよそ829ないし1063カロリーを供給することになる。これによって発育期の子どもや活動量の少ない大人が1日に必要とするカロリーが大量にまかなわれていることがすぐに理解できるだろう。しかし精製された小麦粉を使った食品からはこうした大量のカロリーが供給されるにしても、ミネラルやビタミンのような身体をつくる基になる栄養素の標準必要量の供給という点では、これらの食品は不十分である。これらの栄養素は精製の過程でほとんど奪いとられてしまい、したがってこのような穀物食品に関する限りこれらが近代社会に与えられることはほとんどありえない。このなかには、身体の中央指令官たる脳下垂体の機能遂行にとって不可欠なビタミンEも含まれている。
私たちが未開文明から学びうるもっとも重要な教訓の一つは、彼らが虫歯を予防するためにとっている方法の詳細な内容である。この点については私はすでに1つの章のすべて(第16章)をこれにあてているので、ここではごく簡単に解説するに留めることにしよう。単純化して言えば、虫歯予防のために未開の知恵を実践的に応用するという場合、そこには身体を強化し健康を回復するために必要な栄養素を全種類備えた自然の食物を使用することが含まれている。このことは、あらゆる種類の動物が虫歯予防を創りあげたのは食物環境の産物であることを意味する。したがって、もし我々が食物の本来の姿を歪め、その価値を奪いとってしまえば、自らが深く傷つくのは当然である。大自然は、各種の器官の発達にとって欠かせないミネラルやその他の要素が配分されて入っているパッケージとして、これらの食物を提供してくれているのである。単純な動物のなかには、我々人間にも必要な栄養素のいくつかを自らの体内で合成することができる種類の動物もいるが、しかし我々人間はそれらを創造することはできないのである。便利とか利益とかのために自然の食物に含まれる価値を奪いとっていくという近代社会の略奪過程は、大自然の神聖なるもくろみを完全に妨害するものである。精白小麦粉の製造過程における小麦からの価値の略奪が、いかにして穀物に含まれるミネラルやその他の化学成分を減じ、結果として身体の形成や維持にあずかるという正規の特質を失ない、ただのエネルギー源にしてしまうかが明らかになった。私たちの食欲はあまりにも歪められてしまっており、そのために、空腹を訴える際にも身体の形成や維持のために欠くことのできない化学的要素の補充の必要性について意識できなくなっているので、もっぱらエネルギー源補充という点に集中するのである。
虫歯の予防にまず必要なのは、エネルギー供給に対する飢えが充足される以前に、すでに身体の形成や維持にあずかる要素が十分に摂取されていなければならないという条件である。身体が大量に必要としている栄養素、つまりカルシウムや燐といった類のものと、身体は強力に要求するけれども比較的少量でいいようなその他の栄養素を、身体は必要とするものだ。そうした要求に応えるためには豊富な種類の食物が用いられなければならない。人間の重大な欠点の一つは、すでに判明しているビタミン類を含んだある種の賦活剤を自ら合成することができないことである。このために人間は、十分な量を供給することがとりわけ困難なこれらの有機触媒、特に既知のビタミン類を含んだ脂溶性賦活剤を供給してくれる特別の食品群を一定量摂って栄養を強化する必要が生まれる。私が調査した未開種族は、これらの脂溶性物質のうちの数種を与えてくれる3つの供給源つまり海産物、動物の内臓、酪農製品のうちどれか一つに依存していた。これらはどれも動物性の食物である。虫歯を予防するばかりでなく、症状が進行している時にはそれを抑制してくれるような栄養を身体に供給するという点で、その適切性が臨床的な検査で立証されている食餌療法については、第16章ですでに指摘したところである。子どもや母親の身体的発達の最盛期のような、身体に大きな負担を強いる時期にもたいていの未開種族の場合には、食物の選別を通して獲得される安定要因があらゆる重圧に対抗して身体をかなりしっかりと守っているため、身体に過剰な負担がかかることはない。私は、わが近代文明社会では身体に重圧のかかるこの時期にぜひ必要とされる栄養とは、いったいどんな種類のものであるのかを指摘したことがある。またその場合、各種族が食べている食物を何もかもすべて摂や入れる必要はなく、未開食に含まれている栄養素をすべて摂取するように、我々の食生活を未開の食生活に適合させることだけが必要なのである。虫歯は不必要なものであるばかりか、生命と健康に関する大自然の基本法則に私たちがいかに背いているかを示す指標でしかない(未開食の献立については第16章を参照してほしい)。
虫歯をつくりだす原因という点で近代的加工食品がどれほど責めを負わねばならないかは、乾燥コプラの価格が何ヶ月にもわたって高騰し、貿易船がこれの積み出しのために何回も港に出入りしていた時、太平洋諸島に住む発育盛りの子どもたちに虫歯が急速に広まったことを考えれば、実に驚くほどはっきり証明されている。この時コプラの代価として交換されたものは、9割が精白小麦粉と精糖で布地や衣服は1割にも満たなかった。しかしコプラの価格が1トン当たり400ドルから4ドルに下落すると、交易船は来なくなり島民たちはもとの原地食に戻ったのだが、その結果虫歯の進行も止まった。現に私は、虫歯の進行が止まって孔だけ空いているという状態の人に多数出会ったのである。
未開の知恵を今日の問題に実際に応用しようとするとき、その範囲が広すぎてほんのわずかな事柄しか実践に移せないかもしれない。多くの未開集団で少年少女の一生涯のためを思って行なわれている処置と、近代社会において社会制度的にとられている方法との相違については強調しておく必要がある。未開社会の子どもたちが父親や母親を家庭教師としながら訓練を受けている、その注目すべき実践について本当に知っている人はほとんどいないだろう。例を挙げて説明すれば、北極圏に近いカナダ極北部に住むインディアンの社会では、生涯の伴侶を選ぶのは男子ではなく女子の方である。これには女の子の両親の助けがある。伴侶として考えるにふさわしい人物だと思われるまでには、男子は冬期用の小屋が造れることをやって見せなければならないし、数週間にわたるこの試練期間中は両親の家庭生活を維持するための薪を集め、野生の鳥獣類の食肉をすべて調達しなければならない。少年が10頭の灰色の大熊を倒すには、腕も必要だが同時に勇気がなくてはならない。そしてこの腕前と勇気の程を立派に披露して初めて、結婚の試験期間中家に入ることが許されるのである。少女の方はこの試験によって選択する特権が与えられているが、一度決定されると両人は完全に貞節を守らなければならない。少女たちは裁縫、調理、育児、家の修繕の手伝いなどについて教育を受け、生涯にわたる妻の務めのために花嫁修行をするのである。こうした極北の森林地帯に住むインディアンほど幸福な人々に、私はめったにお目にかかったことがない。
オーストラリア原住民について述べた第10章で、私は男の責任に対する少年の準備教育について同じような話をした。今日の大学生が試験やテストに成功しなければならないといっても、ここの少年たちほど苛酷なことが要求されているわけではない。
アフリカでは、いくつかの専門的な分野で特別な訓練が必要とされている。祈祷師になるには数年もかかって指導者の訓練を受けなければならない。少年ならば誰でも、自分の属する集団が1年に消費するある決まった量の家畜を調達しなければならない。未開種族を調査して私が感じた、おそらくはもっとも忘れ難い印象は、ペルーの太平洋沿岸地方とアンデス高原地帯に何百年も前に埋葬された人々の1276もの頭蓋骨を調べた時の感動である。この厖大な頭蓋骨からは、ペルーの近代化した地域の住民のかなり多くの割合を占める人々や、それのみならず、今日の合衆国やヨーロッパの多数の国々のたいていほとんどの人々が苦しめられているあの顔と歯列弓の著しい狭窄が見られる頭蓋骨が、ただの1つも発見されなかったことである。こうしたことが起った理由を解明し、誤りをおかした原因を除去することこそ、近代文明にとってこれにまさる重要な問題があるとは私には思えない。しかし、この問題の重要性を認識している人はおそらくほんのわずかしかいまい。そしてこの問題の先行きが暗いのも、このためなのかもしれない。
未開種族から私たちが学ぶべき重要な教訓の一つは、土壌の生産力、植物の成育、それに人間の赤ん坊という3者の間に存する均衡状態を維持しなければならないという教えである。オーストラリアの大部分を占めているような地味の劣った所であっても、原住民たちはひじょうに長い間この均衡を保つことができた。彼らの産児制限の制度はたいへん効果的かつ厳格なものだった。国際連盟によって任命された委員会が実施した調査によると、1人当たりの土地の必要量は小麦栽培ではおよそ0.5エーカー、酪農品で2エーカー、食肉用の牧牛で10エーカーとなっている。オハイオではたった150年間のうちに近代文明が州全体を席巻してしまったこと、そしてその間に表土のおよそ半分程が雨や風の侵蝕作用によって失なわれたと推定されていること、これらの事実を本当に理解できれば、大自然が長い時間かかって繁茂させた植生が、この近代化という原因だけによって短期間のうちに、この地域でひじょうに衰退していったことも理解できるはずである。私は第20章で、農地の表面から7インチの深さのところまでに十分な燐分さえあれば、小麦だったら収穫量を最大にした場合で約50年、普通の収穫量で100年は大丈夫だと指摘した。他の穀物でも同じようにそういう土壌が必要になる。土壌の漸進的な消耗と心の病気の漸増との関係を示すデータも私は示しておいた。
現在の世代と一世代か二世代前の連中は合衆国のほとんどの土地からすぐに入手できるミネラルを必要以上に取り出し、それらを土地に戻すこともせず費消してきたことは明白な事実である。その結果、彼らは子孫たちを深刻なまでに不利な立場に追いやってしまった。というのも、一つはミネラルを補充することはたいへんむずかしいからであり、もう一つは数百年のうちに新しい表土の層を上積みすることなどとうていできないからである。人間が自らの身体を発達させるには動物性食品と植物性食品が必要であり、そのためには土壌に依存せざるをえないわけで、したがって、ここである一つの深刻なジレンマが生じることになる。ミネラルは、その成分を構成する上で土壌に含まれている栄養素に依存するというふうに両者は連鎖している。また植物中のビタミン分や蛋白質分は土壌に含まれているミネラルやその他の栄養分がどれほど吸収できるかどうかに直接関連していることがわかっているのである。人口と土壌の生産力とのこうしたバランスを維持するという項目が入っていない計画は、人間の悲惨な退化を不可避的に招来するだけである。人口の過剰は紛争や戦争の原因である。過去の多くの文明の興亡の歴史をみると、文明が、表土、森林、低木、草本に含まれている代々蓄積されてきた栄養を使っている時にはどんどん興隆していくけれど、同じ文明がこれらの生命の不可欠で本源的な資源を破壊した結果の報いを受ける段になると、次第に滅亡の道を辿っていくことが記されてきた。こうした進歩と退化の繰り返しは現在のアメリカ文化においても見事に映し出されているのである。
今日使用している様々な治療手段は、未開の人々の生み出したものが私たちの社会へ入って来たものである。世界を見渡したとき、もっとも大きな災難であると考えられるものの一つにマラリア熱がある。どの地域でも、キニーネを使ってこれに対処してきた。事実世界中たいていの所では、これがなかったら白人は住めなかっただろう。ところが、このキニーネが古代ペルー・インディアンによって後代に伝えられたものであることを知っている者はほとんどいないだろう。
私は第15章で、消化管の重い障害を予防したり治したりするためにいくつかの未開種族が用いていた治療法に関するデータを提示しておいた。これは粘土とか珪酸アルミニウムを使うやり方であって、後者について近代科学は有毒物質やその他の生成物を吸収しその結果それらを集積することができるという、重要な特質を有していることを後に学んだのだった。未開人の食事においてこの物質が果たしていると思われる役割や、感染反応とかアレルギーといった近代的な問題に対するその応用可能性に関して、重要かつ新しい光が投ぜられている。『歯科疾患』という著書の第1巻で、私は有毒性の感作反応と歯科的感染を関連づけるデータを提示した。両者の関連は動物でも人間でも見られた。私はこれらの反応に対するヒスタミンの関係について論じ、ヒスタミンの接種によって生じた影響と有毒性の感作反応が類似している点を強調した。しかし、この問題については最近になって重要かつ新しい事実が付け加えられた。それは、その論文によってアメリカ医学振興会賞を授賞したC・F・コード博士の研究である。彼は、1938年12月にバージニア州リッチモンドで開催された振興会の会議にあたって、その研究結果を提出した。コード博士は、ヒスタミンが様々なアレルギー症状の原因を実際につくっている生成物であることを発見したらしかった。花粉、種々の食物、塵、その他の感染媒体によって生じるところのぜん息とか枯れ草熱とか皮膚発疹とか、いろいろな形をとって現われる症状の実際の原因は、血液中に過剰に蓄積されたヒスタミンなどである。彼によれば、白血球の一種である好酸球の減少が血液中のヒスタミン過多の原因である。したがって、吸収剤としてカオリンや珪酸アルミニウムを用いる未開種族の治療法は、そうした症状を抑制するのに直接作用していたことがわかる。さらに、現在ではこの治療法が、近代社会に発生しているアレルギー症の予防に大いに役立ちうることも明らかにされている。ところがそれ以前の研究では、ヒスタミンは結腸内のある種の微生物群の働きによって消化管のなかで蛋白質が腐敗してつくられたものとみなされてきたのである。
近代科学はビタミンCの発見を誇りにしているが、過去においてはこの欠乏による壊血病のために、何百年にもわたって幾千人もの白人の水夫たちから何人もの死人を出していたのである。この病気の治療に関して一番最初に報告された例は、イギリスの兵士がこれのために大量に死んだ時カナダに住むインディアンたちが治療にあたったというものである。インディアンは、えぞ松の若枝の先端を水に浸してつくったお茶を使うことをイギリス兵に教えた。私は極北部のインディアンたちといっしょにいた時、一人の酋長にここのインディアンたちはなぜ壊血病にかからないのか尋ねた。すると彼は、第15章ですでに話したように、動物の特別の器官を食べて予防している様子を説明してくれたのだった。なるほど私たちはビタミンCの欠乏を壊血病の原因として考えるようにはなったけれど、量的には十分だと思える我々の食生活のなかで、ビタミンCの欠乏していることがいかにして他の多くの病気の原因となりうるのかについては知らない。新種の病気については、自信なげに、近代的な食生活におけるビタミン欠乏と関連づけて考えられている程度なのである。
近代的風潮として、好きな物だけを、特に量は少なくても空腹感を満たしてくれるような食物を、好んで食べる傾向がある。もう一つ、2、3の既知のビタミンとその効能によって考えようとする傾向もある。ところが未開社会では、ほとんどの近代病を全般的に予防するために多種多様の、しかも十分な量の自然食品を好んで食べることによって、あらゆる緊急事態に対処しうる適切な栄養素を自らに供給するという傾向があるようだ。彼らが成功したことをみれば、彼らのやり方の方が我々のより優れていることは明らかである。今日の国際関係にみられる重大な進展は、知識の国際的交流を成し遂げるための教授職の交換交流に依存している。未開種族の遺風に対して強い賞讃や同情の念をもちながら文明人は自分たちの文化を伝える。それと引き換えに、未開種族が受け継いできた知識から得られる教訓を受けとったとすれば、幸福なことではなかろうか。次第に滅亡への途を歩んでいる近代文明の流れをくい止め、大自然の法則との調和を取り戻すためには、それは、我々に与えられた絶好の機会であるばかりでなく、我々がもっとも希望するところでもある。
世界のいくつかの地域に住む未開種族の人たちのなかに滞在していた時、私は彼らがすばらしいパーソナリティーと強靱な性格をもっていることに深く感動した。私は彼らのなかで生活している時これっぽっちの恐怖心ももったことはなかったし、私が彼らを信用したのは間違いだ、などという気もまったく起こらなかった。私が彼らのためを思って訪れたということが通じると、彼らは実に驚くほど親切で献身的になった。基本的に彼らは宗教人であって、全能の、万物に棲み給うある力に対して、心からの崇敬の念をもっている。この力は彼らを守護し彼らに必要物を与えるだけでなく、彼らが大自然の法則に従っていれば彼らを包み込んでくれるその偉大な霊魂の一部として、彼らを受け入れてくれるものである。
E・T・シートン氏は彼の小さな著書『北米インディアンの福音』の冒頭で、このインディアンの心を美しく表現している。
白人の文明や文化は本質的に物質中心主義的なものであって、ここでの成功の尺度は、「私は自分のためにどれほど多くの財産を手に入れたか」ということである。北米土人の文化はそれに反して、精神的なものが基本になっている。そこでの成功の尺度は、「私は同じ種族の人間にどれほど役に立ち尽くすことができたか」にある。白人の文明は失敗に終っている。それは我々の周りで目に見えて崩れ落ちていっている。その将来を占う決定的なテストにはどれもみな不合格だったのである。物事をその結果で評価しようとする者ならば、この根本的な言明に誰も異議を唱えることはできないはずである。未開人が自分もその一部であるところの万物に普遍的な力を信仰している以上、そこには霊魂不滅の信念が含まれている。彼は、たえず敬虐な心と深い信仰をもって、自分もその一部であるところの偉大な目に見えない神とともに生きるのである。エリザベス・オーデルが次の短詩のなかで表現しているのは、そうした未開人の心であるように思われる。
大地の丘に広がる平原に
私は横たわり、地面に耳を押しつけ、
大地のなかで遠く深く脈打つ
心臓の律動的な音に耳を澄ます。
するとそれに合わせて私のなかの
速くて聞きなれた心臓も脈打つ。
2つの音はまるで1つの音のように
ともに強まりともに弱まる。
大地の音と私のそれは区別できない、
私は律動的な宇宙の心臓の一部なのだから。
引用文献
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