食生活と身体の退化
〜未開人の食事と近代食・その影響の比較研究〜

W. A. プライス著、片山恒夫訳

第19章 肉体、精神と道徳の退廃(前半)


世界各地の未開人とともに生活し、孤立した状態で彼らを研究した後では、そこに監獄や収容所がないといったことほど、他の事柄に勝る生き生きと蘇ってくる印象はない。他方、我々の文明社会が直面している問題としては、反社会的な性向をもち責任感を喪失した人々の割合が徐々に増加しつつあることほど、重大で世を混乱に陥れる困った問題があるだろうか。

レアード氏(1)は、『一国を揺るがす輩たち』と題する論文の中で、そうした問題にみられる幾つかの側面を強調して次のように述べている。

我が国の国民の一般的な能力の水準は平均して、世代を重ねるごとに低下してきている。選挙権も、自分の面倒を見ることができる市民に限って与えることにしてみてはどうか。4人に1人はその資格がないということになろう。
彼はこの退化の問題がもつ重要性について、次のように詳細に説明している。
20近くの州のうち、どの州を引き合いに出してもよいのだが、バーモント州は故パース・ベイリー博士が研究したところでもあるので、まずその州では、彼によれば、「バーモントでは少なくとも、1000人に30人が8歳程度の知能しかない欠陥者であり、1000人に300人は明らかに知能が劣った遅滞者や知恵遅れの人間である。換言すれば、合衆国の全人口のうちほぼ3分の1が、何らかの監督が必要な者たちである……」
近代に見られる退化現象という問題をもっと広い見地から眺めるには、精神的欠陥についてトレッドゴールド氏が行なった観察のことを触れておくのが有益であろう。彼は次のように述べている。
かくして、医者、病理学者、それに心理学者にとっても、興味深い問題を多く提供してくれているのだが、精神的欠陥の条件というものが、そうした専門家の枠を越えて興味深く、重大な側面をもっていることは明らかである。人間においては、精神というものが優越しているのだから、また、人間に進歩をもたらしたのも、精神の発達や進化によるのだから、精神病、特に精神障害の問題は、政治家、社会学者、哲学者それに社会全体にとって、これほど重要な問題はないことも明らかである。
未開種族について、こうした問題を探求することとの関連で、次のことを見ておくのも興味のあることである。そこで得られたデータは、臨床病理学者や臨床医それに解剖学者たちが、欠陥者に属する個々人の肉体や身体構造の特徴を研究することで得た資料と完全に一致しているのである。口蓋の形態がもつ重要性という問題について論じる時、トレッドゴールド氏は言う(2)。
口蓋について---精神的欠陥が口蓋の異常と連合していることは、以前に認識されていたことであるが、それは、こうした条件のもとでもっとも普通に見られる奇形の一種であることには疑問の余地がない。その点については、数年前にロングドン・ダウン氏が注意を喚起していたが、ごく最近ではクラウストン氏が多数の観察を行ない記録している。それによると結局、正常人にも口蓋に欠陥のある場合も見られるが、神経系統や、精神的に障害のある者では、はるかに口蓋に欠陥のあることが多いということを示している。彼の述べるところによれば、口蓋障害は、普通人には19%しか見られないのに、精神病者では33%、犯罪者では55%、白痴では61%を下ることがないのである。この問題について、さらに徹底的な研究を行なったピーターソン氏は、口蓋に障害の見られる様々な異常について念入りに分類し集積したが、それによると精神薄弱児(精神に障害のある者)では82%以上が、てんかん患者では76%が、そして、精神異常者では80%に口蓋の障害が現われていた。
おそらく、アメリカのどの都市でも、精神障害者や不適応を起こしている者のために、特別な学校や学級を編成するといった形で特に施設を設置してきた。クリーブランド市ではいわゆる虞犯少年の問題を扱っている大きな学校がある。彼らのほとんどすべての者は以前裁判を受け、この施設に行くよう申し渡された少年たちである。というのは、通常の学校という環境の中でうまくやっていけるほど十分な適応能力がなかったからである。その施設の校長とそうした少年の特徴について話していた時のことだが、私は校長に結局のところその少年たちが犯罪者になってしまう確率はどれほどあるのかということを尋ねてみた。彼の語ったところでは、その学校にいた以前の少年たちについての経験から判断すれば、彼らは本当に刑務所の入口にいるのと同然だということであった。

こうした少年たちについて行なった研究に触れるに当って、彼らに見られる特徴とも言うべき異常な傾向を矯正しようと設けられた、設備の良い施設で見られた経験についてみておくのも有益であろう。これに関連して合衆国労働省の公報203号にも有益な報告がなされている。それは著名な矯正施設5ヶ所にいた621人の出所後の経過を追跡した結果を示したものである。それは、66%が逮捕され、その施設を出た後、58%の者が一度以上有罪判決を受けていることを明らかにしている。この種のデータから明らかになるのは、こうした異常な行動をもたらす作用というのは、おそらく、脳組織の回復不可能な損傷によるものであるということである。実際、最近の犯罪報告書は、青少年犯罪の増加について記述している。労働省少年局の発表(1938年11月4日)によると、「1930年以来、1937年に初めて青少年犯罪が急増した」とのことであるが、それが何故かはさらに研究を行なわなければ説明することはできないことである。

17の州およびワシントン特別区にある28の裁判所から少年局に寄せられた報告書によれば、1937年度中に3万1038ケ一スを扱ったが、それは1936年度より3000件の増加になっているという。また、処理したケースの44%は、14-15歳の年齢の子どもが、22%は12-13歳の子どもが、10%は10-11歳の子どもが関与したものであったという。処理した総件数のうち85%は少年によるものであった。

この問題にアプローチしようとして、私は虞犯少年のために設けられたクリーブランド州立学校で、189人の少年たちの検診を行なったのである。私が特に注意を払ったのは、栄養障害の徴候が身体に現われてはいないか、しかもそれが子どもの成長期に関係があるとはっきりわかるものについてであった。我々は、その子の家族の歴史や出生に関わる詳細なデータを得ようと努力した。我々は幸いにも、教育局厚生課の歯科センターの役人と看護婦の助力を得ることができた。その一人には、少年の母親たちから直接情報を得るために多くの少年の家まで出向いてもらった。

この少年グループのうち、研究の事例として含めるのに十分なほど詳細なことを知り得なかった少年たちが29人いる。この少年たち189人のうち、正常であると分類されるに足る普通の歯列弓をしていたのはたった3人にすぎなかった。したがって、98.4%の者は、多少ともはっきりと異常であることを示していたことが明らかである。顔にひどい奇形のあるものも少なくなかった。

子どもの異常な身体発達にとって両親のいずれが責を負うべきかを完全に決定することは困難であることが多いのだが、そうした子どもの出生順位を研究してみることは興味深いことである。この子どもたち160人の家族の平均的な人数は4.75人である。そのうちの35人、すなわち、21.9%の者は、それぞれの家族の第一子であった。13人すなわち9.1%は一人っ子であり、39人すなわち24.4%が末子で、36人すなわち22.5%が五番目以下の子どもであった。また、62人すなわち38.7%は長子か末子のどちらかである。このデータから言えそうなことは、調査を行なった家族の中で長子と末子あるいは大家族の中で最後近くに生まれた子どもの場合も、中の子どもたちよりはっきりと栄養障害についての配慮の機会に恵まれていない傾向が認められるのである。自分の子どもが受胎期間中に欠陥が生じたと思われる時の、両親の年齢が何歳であるかということに関する統計をみれば、ひじょうに年の若い両親は、子どもをもうけるのにもっとも適した時期に生んでいる者よりも障害児を生む確率がうんと高いということがわかるのである。クリーブランドの学校には、多少とも重大な非行を犯して、裁判所に送られる子どもばかりが収容されていた。もし、彼らが、そのかなりの部分が、病める社会の産物であるとするなら、その子どもをこの施設に押しやることになった非行について全面的な責任をとらねばならないというのは、まったく公平なことではない。彼らは、非行を犯すことになった異常性に対して全面的な責任をとらされ、刑務所行きが過去にもそうであったように運命づけられているのなら、そのことについても考慮を受けてしかるべきではないだろうか。社会というものは、彼らの不行跡にたがをはめることによって、社会をそれから守ろうとすることは正当なことではあろうが、社会が、むしろ被害者というべき個人に責任を全面的になすりつけることは正当なことだとは言えないだろう。

クリーブランドの民事訴訟裁判所に提出された、凶悪犯人の精神的能力に関する最近の研究によれば、診療所で検査した既決の凶悪犯人3197人のうち、正常とみなされた者は42.3%しかいなかったのである。55.9%の者は障害のある犯罪者とされ、精神に異常があるとされたのは1.8%にすぎなかった。この研究の副産物というべきものは、オハイオ州の新刑法として、将来州憲法に取り入れられるようクリーブランドの弁護士会によって草案の形にまとめられたことである。この法案は、障害による犯罪とも呼ばれるべき新しい犯罪のカテゴリーを設けることになる。このカテゴリーには魯鈍やその他の精神異常は入ってはいるが、重罪や軽犯罪を犯した精神異常者は含まれない。これを立法化する目的は、隔離施設に犯罪者を収容できるよう、新しい分類に該当する侵犯者に特別な処置を施すためである。他の州の法律と同じく、オハイオ州の法律は、正常者か異常者かという2種類に犯罪者を分けることを認めている。もし正常者であれば、罰せられることになる。

環境に対して青年たちをして必要な適応をなし得ないようにさせた異常性については、誰が責任を負うべきなのかと問うのは当然のことであろう。

クリーブランド学校の生徒たちに見られる特徴で重要なことは、彼らの知能が低いことである。実際、この施設に送られる以前に、すべての子どもが知恵遅れだとか精神的未熟児であると記録されている。

同じような遅滞が見られるのであるが、虞犯少年に入るほどでもなく、反社会的な特徴を示していないような少年たちの性格について記しておくことも大切であろう。私たちは、そうした少年というのは、さして問題となる反社会的行為を犯したことがない者ではあるが、明らかに精神的遅滞者に入る者と考えている。そうした少年は、クリーブランドのアウトウェイス学校に行けばいるだろう。およそ1000人の生徒がいるその学校の子どもたちは、肉体的な悩みももっているのではないかを確認するために検査を行なった。この学校には、精神遅滞の子どもの割合がひじょうに高いという特徴がある。その多くの子どもたちは、特別な訓練を受けた教師のもとで指導を受けさせるために集められた者たちであった。代表的な子どもたちを検診したところ、顔の形が変化していることでもわかるように、ほとんど全員が発育期に障害のあったことが明らかになった。この施設にいる子どものうちで、11歳から17歳までの者を学校の当局者が選んで編成した典型的なクラスで予備的な調査を実施した。私は歯列弓を診察し、手と顔の測定を行なった。学校の看護婦の手を借りて、家族の他の子どもたちとの関係についての記録を入手した。この調査では看護婦が現地で補足調査を行なっている。その記録に示したように、知能指数もとっておいた。その調査の対象となった29人のうち7人、すなわち25%の者が第一子であった。14人すなわち50%が末子であった。おおむね正常な歯列弓をしていたのはたった1人しかいなかった。つまり、およそその3%に当たる。28人すなわち97%の者が、上か下の歯列弓に異常が見られた。この子どもたちがこの施設に入れられたのは、知恵遅れであったからである。全体としてみれば、非行傾向をもとにして編成されているトマス・A・エジソン学校で調査した子どもたちと比較してみることも可能である。この学校では、教室や運動場でその他の子どもたちを観察するという形でざっとした調査を実施した。それによると、彼らにも歯列や顔のひどい奇形がかなり見られ、大部分の者に、顔の発達に障害のあることは歴然としていた。このデータは、精神遅滞で特別学級に入れられた精神障害児にほぼ合致するものであることを示している。アウトウェイス校の生徒では、その比較的大部分が知恵遅れの特別クラスに入る者であったが、トマス・A・エジソン学校の生徒がもっていた非行歴は見られなかった。両者に共通しているのは、肉体に欠陥が多く見られるということである。

したがって、我々に関心があるのは、虞犯と犯罪との間に知恵遅れの諸段階にいかなる関係があるかという点である。この問題を明らかにするため当州の刑務所を訪れ、反社会的傾向をもっていたためそこに収容されている者に顔や歯の発達にどのような特徴が見られるかを観察することにした。私はそこの主任、メイ博士とともに歯科診療室を訪れ、口腔検査のためにそこに来た収容者の中でも典型的な者の口腔を視診したのである。私が博士に尋ねたのは、彼が観察した収容者の特徴と、収容所外で個人的に行なっている診療で得た所見とでは、何か口腔に関して特別な差異が見られるかということである。彼は、所内では口の割りに舌が長すぎる傾向があることにずっと注目していたと述べたのであった。これは、精神障害のある者、特に黄色人種には常に見出される特色である。この施設にはおよそ4000人が収容されている。この中で多くの者が顔の形や歯列弓の型に障害が現われているのと同様、胎児期に障害を受けた顕著な証拠を示していた。そのうち半分以上の者が仕事をしたり、作業をしているのを見たが、顔が正常に発達している者は1人も見ることができなかった。図122に示したのは、この収容者の典型的な人物である。そこには前方と側方からの写真を載せている(フートンの最近の著書を見よ15a)。

年少の犯罪者が犯した犯行について毎日写真人りで報道している新聞をみれば、ほとんどいつでも胎児期に障害を受けた跡のあることがわかる。図123に示したバードとニクソンという2人の人物に注目してほしい。


図122 犯罪者たちを写したもの。彼らの反社会的傾向は出生前の障害がもたらした脳組織の欠陥に直接関係があるのだろうか。


図123 この悪名高い年若い犯罪者たちの顔には、正常な発達がみられなかったことは歴然としている。この点に注意してほしい。ニクソン(左)はわずか18歳である。この2人は、日々新聞でよくお目にかかる犯罪者の典型的な見本である。

頭、顔、脳に見られる発達障害は、いろいろな形で現われるという事実を強調することが必要であろう。黄色人種では、それがもっとひどい形で現われるのが特徴である。それは図124のように、顔の障害は典型的なものであるし、それには精神障害が伴っている。ということは、既に示したように脳にも典型的な障害があるのである。しかし、黄色人種ではそうした障害がある者でも、犯罪者の傾向を示す者はあまりない。事実、彼らの障害は重度ではあるが、人種集団全体としては、素直で、従順で、楽天家であることが多い。実際、程度の差はあれ、知恵遅れや犯罪者であっても、街頭、学校、職場で見かける大多数の典型的な顔つきと変わらない者もいるし、社会で尊敬を受け名誉ある地位について十分やっていける者もいるのである。したがって、顔に障害があったり歯列弓が正常でなかったとしても、それを、大ざっぱにいって反社会的な人物によく見られる特徴と関連させるのは、正当なことではないし、まったく不公平なことであると言わねばならない。顔を見ただけで、脳障害の種類や程度を、出産前の栄養不良によるものと直ちに判断することはできない。事実、こうした顔かたちの様々な相違は、我々の住む近代社会では正常な人々に見られる多様性であり、タイプの差を示すものとして受け取られている。我々は、大自然の造り出した人相の雛形とか造作とかいっても、大自然の支配下にある自然環境のなかで生活している未開人を見るまでは、理解できないであろう。


図124 これは典型的なモウコ症患者にみられる障害である。鼻と顔の中ほど3分の1の発達がまったくよくないことと、下の歯列弓に比べて上の歯列弓がきわめて小さいことに注意してほしい。この種の人間は、様相も、行動もよく似ており、どの人間も話し方や行動に欠陥がみられる。こうしたことは、現在では、脳に決定的な障害があることと関連があるとされている。ほとんどが長子か末子で、大部分が40歳を過ぎた母親から生まれたものである。

我々が関心をもって知りたく思っているのは、今日の近代文明社会の中で典型的な集団をとりあげた時、正常者、軽度の知恵遅れ、重度の知恵遅れ、社会的不適応者、非行者、犯罪者、白痴、てんかん、狂人といった様々に分類される者たちが、いったいどんな割合になっているか、ということである。トレッドゴールド氏(2)は、英国とウェールズで実施した2つの調査から、明確に障害のあることが確認された者の全人口に対する割合を数字を挙げて報告している。合衆国でも、脅迫やその他の犯罪を含めて、多種多様な非行がどの程度増加したかを示す調査がなされればありがたい。そして、そのデータが出生前の障害の程度と関係づけられておれば、なお一層役立つことだろう。そうすれば、近代の退化には様々な側面があるから、発病率、死亡率、精神障害・非行などの増加に・栄養の効果の減退がどのような役割を果たしているのかという観点から研究をしてみることもできる。この点については、「土壌の消耗と動植物の退化」と題する次章で論じることにする。

こうした観点からみれば、近代的な生活を送っている白人の文明人と多くの未開人とにみられる差は興味深いものである。外界と交渉のない未開社会では、犯罪がほとんどみられないので監獄の必要性はない。先に、スイスのレッシェンタール峡谷のことに触れたが、そこは、最近に至るまで近代化の過程に巻き込まれることなく物理的に孤立した状態にあったところである。その峡谷には2000人が住んでいたが、監獄は一つもなかった。アフリカのウガンダにいるルアンダ族は250万の人口があるとされているが、ここでも監獄など見られないのである。

未開種族に見られる大自然が与えた正常な顔の形を観察してみれば、どんなタイプも限られた正常型の範囲に入ることがわかる。読者もどの家族でもよいから一度家族の成員を観察してもらいたい。そうすれば白人の家族ではその成員の年長者に比べて、年若い者に顔が細く長くなっている割合がきわめて高いことがおわかりになるだろう。解剖学の訓練や経験がそれほどなくても、観察眼を鋭くすれば、容易に出生前の障害が現われていることを認めることもできるだろう。

私は、ニューイングランド州とケベック、それに東オンタリオで調査を行なった。その理由は、アメリカ心臓学会の報告にあるように、合衆国では心臓病による死亡率は、バーモントとニューハンプシャーで一番高く、マサチューセッツとニューヨークがそれに次ぐ率を示しているからである。私が最初に訪れたのは、サラナックにほど近いレイブルークにある結核患者専門のニューヨーク州立病院であった。病院のスタッフの助力を得て、私は青年男女50人に問診を行なった。そのうち、正常な顔や歯列弓の発達が見られた者はわずか3名であった。この3人は石工で珪肺症にかかっていた。検査を行なった者のうち47人(94%)には発育期に障害を受けた形跡が歴然として見られた。バーモント州のルートランドでは州の記念祭が行なわれ、この催しには州内の様々な地域の住人がやって来る。その人たちを私は観察し記録してみたが、どの100人をとりあげてみても4分の3は発育期に障害のあった形跡が見られた。非行少年、少女のそのほとんどが裁判を受けることになっている子どもたちのために設けられた州立農場でも類似の調査を行なったが、私の観察によれば大部分、おそらくその全員が出生前に障害を受けていたことがわかった。それからケベックに向かい、10代前半の学校の生徒を診た。その集団でも、顕著な出生前の障害が見られる者が高い割合でいることがわかった。このことは、農場が閉鎖されてしまった地域では一層悪化しているようである。農場が放棄されたのは、以前のような土地の生産性がなくなったからである。私は、2つの居留地でインディアンについても調査したが、そこでも近代的な白人の地域で典型的に見られるのと同様の顕著な障害のあることがわかった。さらに、オンタリオの石灰地帯を訪れ、そこの若い世代の顔の形について詳しい観察を行なった。その土地の土壌は消耗が激しく生産能力が涸渇してしまっていた。ここでも栄養が悪かったため、出生前の障害があったことははっきりとわかる。監獄の囚人についても検査したところ、アルコール中毒であった2名を除いて全員に出生前の障害が顕著に現われていた。

もし余白があれば、ここで、新聞に毎日載せられているゆすりや犯罪者の写真を参考にしながら、身体的特徴がどのように関連しているのかを論ずるのも興味深いことである。こういった写真にはめったに正常な顔は見られない。

顔の奇形がいかにして形成されるか、そのプロセスに関して入手できる資料を詳細に研究するうえで、脳の前頭部の基底部に当たる顔面を考慮することは大いに参考になる。眼のすぐ後方には、脳の下の部分に位置している脳下垂体がある。脳下垂体は身体の成長活動を統制する中心組織で、内分泌を行なういくつかの腺機能を統合する。したがって脳下垂体は、人体を船にたとえるなら船長にあたるものである。私たちが関心をもつのは主としてその役割と、脳下垂体の形成と機能を左右する要因を調べることである。多くの研究者は、それがビタミンEに依存していることを明らかにした。たとえば、M・M・O・バリー博士(3)は、ビタミンEの欠乏がネズミの子の発育に著しい障害を起こすとして、次のように述べている。
観察の結果、脳下垂体が外科手術によって取り去られた時と、いろいろな面でよく似た変化が見られた。つまり、脳下垂体の前部が、身体的欠陥のある幼少の動物とか、不妊症の大人の動物とかでは、顆粒減少が生じる。したがってビタミンEの欠乏は幼少のネズミにとって、事実上栄養的に脳下垂体が取り去られたことになる。
この分野において最近、モントリオールにあるマッギル大学のヘクター・モーティマー博士と彼の同僚は、ネズミの頭蓋骨形成に関する研究を行なった。モーティマー博士によると、生後まもないネズミの脳の基底部にある脳下垂体を取り除くと、頭蓋骨形成にある種の障害が起こることを究明した。その特徴としては鼻口部や顔の前面が十分発達せず、それとともに鼻や歯列弓が狭くなるのである。モーティマー博士は、外科的に取り出した脳下垂体から抽出した成分をネズミに与えると、上に述べた障害はどこにも起こらないことを発見した。このことから、脳下垂体によって十分なホルモンが造られないことが、このような障害と大いに関係をもっていることがわかったのである。またモーティマー博士は、この問題を明らかにするもう一つの方法として、腫瘍が妨害して脳下垂体の機能が障害を受けていると診断された患者の頭蓋骨を調べることにかなりの労力を注ぎ、実りある成果を得ている。こういった患者には頭部や足の先端肥大症や骨格などの巨大症といった障害が一般的に見られる。こうした身体に起こる変化をX線を使って調べたり、X線写真からのデータを検討したり、腫瘍の病歴とその特徴を調べたりして、かなりの基礎資料が集められたのである。またX線を使って、特定の心身障害に悩む患者の頭蓋骨を調べた結果、X線で判定できる頭蓋骨のある種の異常と心身障害との間には相関があるという、一連の貴重な研究もなされたのである。種々の試みを通してモーティマー博士は、いろいろな頭蓋骨の欠陥や身体の発育と成長の過程にみられる欠陥を、いくつかの異なる等級に分けたのである。このような分類基準を使いながら、彼はX線写真を用いて診断を行なった。ボストンの神経・内分泌研究所のG・レビン博士、A・W・ロウ博士らとの共同研究で、モーティマー博士は3000の病歴記録を調べた結果、重要な関係を発見した。この研究には頭蓋骨のX線の記録結果も含まれている。脳下垂体の障害に関する精密検査を行なう前に実施された予備的な身体検査の段階で、すでにかなりのことがわかっていた。モーティマー博士のすぐれた研究は、顔と歯列弓の形が脳の基底部にある脳下垂体と直接関係しており、またそれによって左右されるものであることを物語ってくれているように思われる。バリー博士(3)は、雌ネズミの例にもみられるように、ビタミンEの欠乏によって正常な妊娠期間が最高10日間も延びると報告している。こういった状態での出産は正常に行なわれることはない。ビタミンE欠乏症のネズミは、子を生むことはできても授乳することができないのである。

ビタミンEの最良の供給源は小麦の胚芽であるが、それも精白される過程でミネラルの8割がたといっしょにほとんど失われてしまうことを知れば、近代文明において多くの人が直面する身体的悲劇の一つの原因がわかるはずである。多くの人々には精白粉で作ったパンやでんぷん質の食物を、製粉会社から購入できる1包みの小麦の胚芽によって栄養的に補強することが賢明かもしれない。小麦の胚芽は缶詰にもなっている。密封される時あらゆる気体は不活性気体と置き換えられている。この方法は、たいへん壊れやすい胚芽が酸化するのを防ぎはするものの、一度缶詰が開けられるや否や急速に酸化が進み、新鮮な小麦粉からとった胚芽とは似ても似つかぬものになってしまう。私の研究によれば、大自然は、1粒の麦に対してその量に見合うちょうど良い量の胚芽を小麦に貯えている。したがって、全麦をひいてから酸化が進行するかしないかの間に調理し食べるなら、大自然の法則にかなった正しい栄養が適切に得られるはずである。

顔の奇形の発達との関連で、他の骨格における障害や異常が、それと同じ原因によって生じるということを強調しておかなければならない。身長の増加傾向と相俟って身体全体が細くなるというのも、その1例である。こうした現象は近代文明に接触した未開種族の家族に多く見られる。身体が細くなることは、女子においては腰の幅を狭くし体つきを男っぽくするのだが、近代社会でも生殖問題を考えれば、それがまったく新しい深刻な問題をもたらしていることがわかる。

未開の状態で暮らしていた未開種族にとって出産はきわめて簡単で短時間で済むものであり、恐れや不安を伴うものではなかった。しかし、近代文明に触れた未開種族の子孫となると、近代食を食べ始めた第一世代および第二世代においてもひじょうな難産をしばしば経験しなければならない。

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