食生活と身体の退化
〜未開人の食事と近代食・その影響の比較研究〜

W. A. プライス著、片山恒夫訳

第18章 胎児の栄養的欠陥とその病種(後半)

119図(左上)は口蓋裂にかかったウォータースパニエルの子犬である。この子犬は口蓋からでないと空気を吸引できないため、乳が飲めない。人工的に餌をやるときには、鼻孔から突っ込むわけだ。この子犬の母親は前に2回出産しているが、どれも死産か出産後まもなく死んでしまった。正常な子犬が生まれるようミネラル、カルシウム、燐を錠剤の形で補強してはいたのだが、このやり方は自然にかなったものとはいえない。

ある獣医の話によると、必要以上に甘やかして育てたり好物ばかり与えている家のペットになっている犬には、みつくち、口蓋裂、あるいは顔の重度の奇形にずいぶん手こずったという。彼は、いろいろな種類の犬のなかでもブルドッグの頭部障害ほど厄介なものはなかったと言っていた。

子孫に現われる障害に対する父親の責任如何、という問題に関して最近の研究が解明しているほど明らかになっている近代の退化に関連する問題は、たとえあるにしてもごくわずかである。これにはいくつかの理由がある。母親は形成期の胎児の栄養に対してもっぱら責任をもっており、誕生の過程で起こる諸障害もやはり母親によって引き起こされるわけだから、障害が、母親の子どもに対してかかわっていくこうした過程にすべて付随するものと解されるのは当然である。まずいことにこうした事情は、行動上のひずみが時には出生後にならないと現われないため、子どもは生まれ出るまではほとんどみな正常なのだと仮定され、したがって必然的に子どもの生後の環境によって影響されるにちがいないという考え方によって問題はさらに厄介なものとなってきたのである。子どもたちの障害はそういうものと考えられ、精神的な環境を変えるための処方を施すことで処理されることになったのだろう。このため、脳をも含めて身体全体の組織を統御することによる性細胞が果たす役割如何という問題は、ほとんどそっくり見落とされてきたのである。図120に写っている子犬に関するデータから、この問題のひじょうに重要な点が明らかにされる。これは口蓋裂と重症のみつくちにかかったダックスフント種の子犬である。よく目に触れる奇形の種類とも違っており、したがって図119の子犬のものとも似ていない。重要な点は、この犬と同じ時に同じ母犬から生まれたもう一匹の子犬と、それにほぼ同じ時に他の3匹の母犬から生まれた子犬たちのうちそれぞれ1匹が、写真の子犬と同じ奇形をもって生まれたという事実である。この4組の子犬たちは母親はそれぞれ異なっているがすべて同じ父親から生まれている。父親の子に対する遺伝的責任はもはや明確である。


図119 最近の飼育動物には奇形をもって生まれるものが多い。左上は口蓋裂の子犬である。前の2回の出産で生まれた子犬はすべて奇形をもっており、生き残ったものはいない。右上の豚はヘイル教授が飼っていた豚の1匹で、みつくちである。下の写真は目の見えない2匹の子羊と1匹のえび足の子羊である。


図120 この子犬は上の写真からもわかるように口蓋裂にかかっており、下に見られるように脊椎が大きく奇形している。これは同じ障害をもって生まれた同腹の2匹の子犬のうちの1匹で、4組の子犬たちのうち同じ障害のある5匹のなかの1匹である。5匹は母親は異なっているが父親はすべて皆同じだった。

図119の右に写っている子羊は1匹が曲がり足で、2匹は眼球を喪失している。聞くところによると、羊を飼育している地方には子羊の誕生時にかなりの奇形がみられる所もあるという。ある著書は次のように述べている。

これらの奇形はいろいろな形をとって現われる。2面顔、5足や6足、2尾、先天性眼球喪失、雌雄同体、肋骨の片面喪失、これに類する数々の奇形が私たちの目に触れる。羊によく見られる奇形は、下顎突出と上顎突出である。これは文字通り上顎が下顎やその歯列とずれており、前歯がうまく噛み合わない状態のことである。このことから「オーバーショット」とか「アンダーショット」とか呼ばれているのである。
羊によく見られる奇形が、人間にもっとも一般的に見られる発達障害の一つである片方の顎の未発達と関係していることは注目されてよい。家庭で飼育されている動物に起こる奇形のいくつかの具体例が図121に示されている。上の写真は肩の付け根から生えている特殊な前足をした2頭の牛で、下の方は左がみつくちの2つの顔をもった子牛、右が足に奇形のある猫である。


図121 家庭で飼われている動物に見られる典型的な奇形。上の写真の2頭の牛は前足が肩のところから出ている。左下は2つの顔をもった子牛。右下は足に障害のある猫。

ヘイル博士との文通で、私はこうした動物には父親の方にビタミンA欠乏症の徴候が見られなかったかどうかを尋ねてみた。博士の返事は「もし父親の身体のビタミンAの量を減じると子を生めなくなるので、こうした方法を試すことはできなかった」というものだった。私は、両親のビタミンAを不妊になるまでではなく、ややその危険性もあるぐらいの量に減じた時、どういった影響が生じるのかという疑問をもった。

子どもに障害が起ったとき、それを完全に母親側の責任に帰すのはたいへん楽なことである。しかし、性細胞の障害によって子どもの障害のうちある程度のものについては、どちらの親も直接関与しうるということをこれまでのデータは明らかにしてくれる。

私が実施した調査研究の実際の例として、白人と再婚し、彼との間に数人の子どもをもうけた一人の生粋のエスキモー婦人がいた。彼女自身は現地で採れる食物を食べるようにしていたが、夫の方には白人用に輸入された食品をあてがっていた。全部で26人いる彼女の子どもには虫歯はまったくなかった。ところが夫はひどい虫歯で顔や歯列弓も著しい発育異常を示していた。数人の子どもは顔と歯列弓の発達が不十分であった。すでに結婚している娘の一人は歯列弓と鼻孔が狭く身体のつくりはまさに男の子の身体つきをしていた。母親とは違い、この娘はたった1人の子どもを産むときにもたいへんな難産で、もう二度とあのような目には会いたくないと言っていた。他の娘にも歯列弓の狭い者が数人いる。ここで疑問に思うのは、父親の栄養の欠陥がこうした子どもの障害に関係しているのかどうかという点である。

動物研究は人間の問題に新しい光を投げかけつつある。特に示唆に富んだ研究がミズーリ大学のマッケンジー、バーリナーの両氏によって行なわれている(紀要第265号)。実験には羊が使われた。この研究で彼らは精液を調べることによって父親の生殖能力の程度をあらかじめ知ることができるのに気がついた。異常のある精子の発生率は好ましからざる条件のもとでは84%の高率にのぼり、好ましい条件のもとでは15%以下にまで減少するのがわかった。異常精子という要因によって特徴づけられる好ましからざる条件が支配的なときは雌は懐妊しなかった。異常をもった精液の比率にバラつきがあることからもわかるように、気温が高いということが一つの重要な制御要因であることが立証された。ある種の羊では平均すると1月で2.5%、8月で22%の異常をみせた。また別の種類では1月の18%から8月の73%まで大きい変化を示した。2人は冬期に雄羊を小屋のなかで飼育したり、外部から熱を加えてやったりした時は同様の結果が出ることも発見した。さらに精液異常の比率が高いときには、不妊症状をはっきりと示すこともわかった。マッケンジー教授からの私信によると、こうした影響は、精液異常の高率に伴って、卵は受精しないか、あるいは、受精しでもかなりのケースが死産となって現われること、羊、馬、牛、豚の頭数が死産のため多少減少していると言っている。私は、イギリスでは人間の妊娠数の15%が懐妊2、3ケ月の時点で起こる異常のために堕胎しなければならないと指摘したマール氏の示したデータを参考にしたことがある。マッケンジー教授も精液の異常率の高い雄親と、類似の種の雌豚のうち2つのグループのものと交配させた豚の場合のデータを掲げている。一匹は小屋の中で飼い牧場に放したりせずにしておき、もう一匹の方は同じ飼料を与えながらも放牧していた。牧場に寄せつけなかったグループからは、痩せこけて死んだ状態で生まれてくる死産とか、1腹の子豚はみな小さく、また、異常のある豚(内臓突出を伴った腸壁破裂や腰椎部の脊椎露出)が生まれてくる割合が大きかった。同じ餌を食べながらも、牧草を余分に食べていた第二グループからは大きな子豚が正常に生まれ死産の例もなかった。翌年もこの実験は続けられ、その雌豚のグループを反対にして同じ雄豚の前年とよく似た異常率の精液を用いた。そして、牧草に親しむことなく飼育されたグループでは前と同じ結果が得られたのである。このことは自然の食料に含まれているビタミンやミネラル、特にビタミンAの必要性を大いに物語っているし、ビタミンAの欠乏がすべての障害をもたらしたというヘイル博士の研究とも関連しているように思われる。こうした家畜動物の研究から強調すべきは、雌雄両方の親が妊娠前に適切なる食事を摂ること、雌親の方は妊娠後も引き続いてその必要があるということである。

つい最近までは家畜にしろ人間にしろ胎児の異常発達にかかわる要因を問題にした文献はほとんど皆無であった。家畜にも関係するようなこの問題の数少ない研究者の一人であるウィリアムズ氏はこの点に言及して、家畜動物の奇形学(奇形動物の発育)に関して英語で書かれた研究がないと論評したことがある(16)。彼はこうした障害が数の上でも増加しつつあり、経済的にみても重要であることを強調する。彼が引用するのはスイスのブルキ氏の研究で、それによれば氏の受け持ち地区では、この難問題がある一定の割合でしかも急激に増大していることが述べられている。この獣医は「今の牛は退化しているのか」という問いを出した。上顎を含めて顔の中ほどにある骨に発育不全が見られる頭部奇形が獣医仲間で一般に認められているタイプであるが、興味深いことにはそれは、通常「ブルドッグ牛」と呼ばれている。このことは、顔の中ほど3分の1の発達が十分でないという欠陥が人間にも頻繁にみられることとも関連して、特に重要な意味をもつ。ウィリアムズ氏が強調するには、ボストンのブルドッグはあまり子を生まないこと、若い犬が出産する場合、ひどく苦しむという理由から、獣医のなかにはきまってといっていいほど帝王切開手術に頼る者がいることは今や常識であるという。幸いなことに奇形の症状が重い場合にはめったに生きて産まれることはなく、ふつうは予定日まで保たない。ウィリアムズ氏が言うところによると、ロジェ氏は同じ雄親の血を引く子牛たちのなかからある特殊なタイプのひどい奇形のもの10匹を観察しているし、ハット氏が報告した、同様の奇形をもった5匹の子牛の事例でも、みんな同じ雄親から血を引いて生まれていることがわかったという。家畜動物の奇形のうち、ひじょうに一般的なものは口蓋裂、つまり口蓋の欠損である。家畜の研究では2つの事実が強調されている。第一は、こうした動物に見られる奇形が、人間に現われる奇形とたいへん類似していること、第二は、その欠陥が、原生殖細胞と大いに関連しており、雄の方も雌とまったく同様そうした欠陥をつくり出すのに影響しているらしいということである。未開種族のなかにはこれらの不幸な出来事をよく理解し、予防策を講じてきた種族も多くある。

コーネル医科大学とニューヨーク病院のメンチ氏とホルト氏(17)は人体研究において重要な仕事をしてきた人物であるが、2人は精子の異常型が25%に達したときには高い不妊率を示すことを発見した。そして彼らは精子異常の様々な形態のうち、特有の異常精液のタイプを示すある特殊な事例が全体の12%を占めていることを発見した。このタイプの場合、出産記録は決定的に悪く、胎児の奇型は何度も繰り返し起っていた。その事例中、不妊であった63回の調査からは精子異常が37回、正常な場合が21回、その他5回であった。2人は精液に関する異常、あるいは奇型のタイプを40種類以上と報告、次のように結論を出している。
1. 正常な精液の場合、異常な精子の数は19%ないし20%以下である。
2. 精子数の異常が20ないし23%のときは繁殖に障害が起こることが予想される。
3. この異常率が25%以上になると通常は不妊症状が現われる。
家系全体を通して頻繁に現われるそのタイプの障害には、父親の生殖細胞が関係しているのではないか。こうした疑問に答える上で重要な意味をもつ研究が、最近ドイツで行なわれた(18)。
ベルリンの断種法の施行に関与した2人のドイツ人の外科医は、生殖の研究に役立てるために自分たちに与えられた絶好の機会を利用した。

正常人の精子に関する研究はこれまでにもいくつか発表されている。しかし本書は遺伝性障害ありと診断された男性たちの精子の研究をしたものである。断種手術の際に、輸精管の上部を洗浄し、採取した精子を綿密に調べあげ、精子異常の20の異なったタイプを区別したのである。

対照群の研究では、正常人は形態学的な欠陥のある精子を19%造り出していることが判明した。これとは対照的に、慢性アルコール中毒患者では75%の欠陥精子が造られている。

これまで推測されてきたところによれば、異常精子の比率が25%ないし30%になると不妊症とまではいかなくとも生殖能力が減退することは確かであった。しかし著者たちの主張によるとこれらのアルコール中毒患者の生殖能力は衰えていなかったのである。遺伝性の精神障害の場合には62%の異常精子が造られ、その結果生殖能力は(精神障害のある男性によくみられることだが)低い。他方、先天性の聾者の場合はこの比率は62%で、先天性の盲人では75%の割合で障害をもった精子が出現する。先天性のものと思われるてんかん症と精神分裂症(早発性痴呆症)ではともに聾者や盲人より精子の異常は低い数値(それぞれ58%と54%)を示している。
過去において、身体とか精神とか道徳の質的な変化について語る際の全体の強調点が、たいてい遺伝的諸要因におかれてきたという事実は、変化がもたらされる際に作用する諸要因の性質が、どんなものであり、これらの影響力がどういったときに決定要因となるか、これらに関する情報がいかに不足しているかを如実に物語っている。ビタミンA、ビタミンEの役割を論じた本章でこれまで紹介してきたデータは、この問題に新しい有効な光を投げかけてくれる。しかしながら、生殖細胞を傷つけ、トレッドゴールド氏をして、「毒された生殖細胞」と言わしめるような要因を扱う新しいデータが獲得されることが重要である。オハイオ州立大学農学部教授T・S・サットン氏からの私信によると、彼は次のような観察結果を報告している。
数年来私たちは、ビタミンA欠乏の影響に関心をもってきた。現在の主要な課題は、ビタミンAの欠乏が生殖作用に及ぼす影響如何ということである。おもに、生殖腺の胚上皮が退化することによって起こるといわれている生殖不全が、ビタミンA量の少ない食事に起因しているらしいということを突き止めた。これは男性の場合に、特によくあてはまる。このことによってそれがビタミンBの欠乏のときによくみられるような不妊症を引き起こす内分泌物のバランスの失調であるよりも、むしろ生殖腺(卵巣や睾丸)に対する食餌による直接的な障害であるという、かなり説得力のある証拠が得られたと考えている。
ビタミンAの欠乏の結果、神経組織に生じる退化過程についてはサットン教授とその協力者たちが研究してきたところである(19)。このグループはビタミンA欠乏によって神経繊維のなかに生じる微細な進行性退化の特徴を明らかにしてきた。

最新の情報によって、生殖過程における次のような2つの異なった形態がなぜ人々のあいだで生じるのかがより鮮明になった。つまり一つは子孫たちにすばらしく発達した身体をもたらす場合(たとえば私が観察してきた多くの未開種族のなかで実現しているような場合)で、もう一つは生殖能力の完全な喪失、不妊症、それに両者の中間にあるいろいろなタイプの障害に起因する局所的な衰えがみられる場合である。近代文明における退化の進行は、後者のケースが急速に増加しつつあるという事実によるものである。

この研究の主要な課題の一つとして、私は形成期にも青年期にも子どもの成長に部分的な変化がみられることに関係づけて栄養の問題を扱っている。多くの未開種族では土地で採れる食物をやめて輸入食品をとるようになってから生まれた最初の世代に、顔や歯列弓の形状に著しい変化が生じていることを私は指摘してきた。このような変化は、下の子どもにいくほど頻繁に起っており、彼らより以前の世代では、みなすばらしく発達した身体をもっていたというぐらい遺伝的には恵まれた影響下にありながら、現実にこうした変化がみられるのである。膚の色、地理的な条件、気温、気象条件とは無関係に、この変化が未開種族のなかで起っていることを示す証拠は、臨床例からいくらでも探すことができる。私がここで扱っている要因というのは、生殖質や胎児の成長期の問題に関連しているかもしれないにせよ、遺伝性の障害の場合に働く諸々の作用因とは別のものを必ず含んでいるような要因であることはいうまでもない。上に述べたような身体上の変化は直接には家畜の成長障害、特に顔や歯列弓の障害に関係するものであるけれど、私たちが関心をもっているのは、頭蓋骨の解剖学的構造に直ちに影響を及ぼす諸要因の本質に関して有効な説明ができるような証拠に対してである。

身体の一般的な構造は、明らかに、結合時における2つの生殖細胞が健康であるかどうかによって決まる。この構造の形成は誕生以前と以後の栄養摂取の過程に伴う障害のために必ずしも完全になされるわけではない。身体の形成のありようと病気に対する抵抗力あるいは感染可能性との関係如何というこの大問題のなかには、胎児期と出生後という異なった時期にそれぞれ作用する決定的要因が存在しているようである。病気に対する感染可能性は大きく変化しやすい要因であって、しかもある種のタイプの発育障害を伴うことは、これまで蓄積されてきた資料が大いに強調しているところである。

結核感染については、その分野の専門家の集まりが開かれるまで議論の中心は、バクテリア以外の要因が結核感染の問題に関して支配的な役割を果たしているという事実におかれていた。

ワイスマン氏は最近になって身体的発達と結核感染の問題に重要な貢献をした。彼は結核に感染しやすくする胸部奇形のタイプを示す統計資料を提示している(20)。次のように彼は述べる。
正常な胸部と結核にかかった胸部の形状に関して、以前行なわれていた研究では、正常なものは全般に平板で幅広い形をしており、結核にかかっている胸は奥深く幅も狭いことがわかっていた。奥行きの深い胸は発達の不十分な未熟なタイプのもので、形からいえば幼児の胸に似ているとも言われていた。胸部の形状や環境要因に関するその後の研究で、社会経済的環境に恵まれていない子どもたちは、それに恵まれている子どもたちに比べて平均して胸が厚く、体重は軽く身長も低いことが判明した。最近ミネアポリスの様々な校医を対象に、結核の罹患率に関する調査が行なわれたが、これによると、厚い胸をした者の多いスラムに居住する生徒たちの間で結核の罹患率がひじょうに高いことが明らかになった。この市のなかでたぶん一番貧困だと思われる校医では、もっとも富裕な校医の10倍ほどの結核患者がいたと報告されている。

私のこの調査研究では胸の厚いこととツベルクリン反応が陽性であることとの間には、あるはっきりした関連のあることが指摘されているのだが、この研究は、厚い胸をしている程度の違いはあるにせよ必ず結核にかかっているという主張を支持するような一連の証拠に、さらにもう一つの要因をつけ加えている。それはスラム地区に住む貧しい者の間では、なぜ結核の罹患率が高いのか説明するのにも役立つ。すなわちスラムの子どもたちは身体的に未発達だということである。彼らは背も低く体重も軽いばかりでなく、一般に厚味のある、未熟な、そして幼児のような胸、つまり、正常な発育の過程を完了していない胸をもっているのである。ここでは新生児や幼児でさえ、恵まれた環境の下で生まれ育った幼児に比べると背も低く、体重も軽く、胸も厚い。
「新生児や幼児でさえ、恵まれた環境の下で生まれ育った幼児に比べると背も低く、体重も軽く、胸も厚い」と述べている以上、ワイスマン博士が結核にかかりやすい胸部の形状タイプに、胎児期の条件なるものを関連づけて考えている点に注意することが大切である。

未開集団では、土地で採れる食物よりビタミンやミネラル分の少ない輸入食を常食している両親のもとで生まれる子どもたちには、原地食の両親から生まれた子どもより結核の罹患率に大きな上昇がみられるばかりでなく、彼らが、顔や歯列弓の形状も胎児期にその障害をもったことがはっきり証拠立てられるような人々であることも疑う余地がない。どういう理由によってこうしたことが起こるのか。ワイスマン博士の研究はこの点に関して重要な手がかりを提供してくれる。私たちは今や、かってジョージ・ドレイパー博士が強調した観察結果、すなわち、よく病的体質と呼ばれるような、身体的な形状がある種の病気感染に直接的な関連をもっているという事実を直接的に説明することが可能なのである。

このことと関連して、狭小な鼻孔をもった結核患者はやる気のない人間になりがちだという数人の臨床医の意見を思い出す必要がある。狭小な鼻孔は、そういう構造を決定するところの欠陥をもった生殖細胞によって第一にもたらされる胎児期の障害に関係していることは明らかである。これは遺伝によるのではなく、遺伝が妨害されることによって起こるのである。

眼球喪失、みつくち、口蓋裂といった重度の障害の影響を理解することはひじょうにやさしいし、こうした障害はすぐに目につく。しかしながら、脳のような外部あるいは内部の器官における微細な解剖学上の障害による機能障害を扱うとなると問題はたいへんむずかしい。こうした事柄については次章で論じることにしよう。

引用文献


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