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第18章 胎児の栄養的欠陥とその病種(前半)
体質によっては、ある特定の病気にかかりやすいということが、診察専門の医者によって何世紀も前から指摘されてきた。近代の検査技術が発達する以前では、患者の病気が正確に診断できない時、医師は疾患の性質を直感と外的症状から読みとることによって、かなり効果的に病気と闘ってくることができた。古参の多くの医師は生まれつきの体と病気の関連を体質と呼んでいる。つまり、誰それは、肺結核体質(結核になりやすい素質)である、というふうに考えるのである。同じく、関節炎にかかっている人たちはリューマチ体質であるといえよう。近代科学は数量的に問題究明を行なってきたが、特異体質の問題は数量的に解決するにはあまりにも重複した部分が多いので、どこで特異体質の限界を引くかということが決めにくかったのである。
歯髄組織まで虫歯に冒された結果、リューマチ系障害にかかっている患者の体質を調べてみたところ(1)、症状のひどい15.05%にあたる人々については、家族もまた同様な病気にかかっているというたいへん特殊なグループが存在することに気づいた。歯科疾患から全身的にひどく冒される〔歯性病巣感染〕か否かを左右する上で重要な役割を演じるある体質的な要因が実証されたのである。その結果、病原の種類よりも、むしろ身体という土壌、つまり人間の身体状態が重要な要因を握っていることが明らかになった。このことによって、私の研究範囲は広げられ、まだ退化の進行とは無縁な対照集団を探すことが課題のなかに入ってきたのである。しかし、近代文明社会での臨床対象には、このような対照群に当たる集団はなかったので、私は孤立化した未開種族を探し求めねばならなかった。
現代の退化現象である結核、関節炎、心臓病、内臓障害などに対して、孤立した未開種族は、そのすばらしい身体とともに高い免疫性をそなえている。しかし、この身体的優秀性が失なわれた時には、近代的退化の進行に対する抵抗力の減少が起こるのである。たとえば、白人の食事を食べ始めた近代的両親から生まれた子どもたちの顔や歯列弓は狭くなり、それに伴って肺結核にかかりやすくなったのである。
図113には、インディアンとエスキモーのために建てられたジュノー(アラスカ)にある病院の結核病棟に入院している4人の患者が写っている。全員が胎児の時になんらかの障害を受けているのを示している。犬歯が歯列弓の外側に生え出していることに注意されたい。左上の少年の、上顎歯列弓は下の方よりも一回り小さく、内側に入り込んでいる。上顎歯列弓がひじょうに小さいので、両側の歯列の間に1本の指さえ入れることができない。この写真は、病棟が暗いのでカメラの露出時間をゆっくりかけて撮ったものである。写りは良くないが患者の歯の状態はわかるだろう。
図113 アラスカのジュノーにある政府の建てた病院の結核病棟に入院している重病のエスキモーの子どもたち。この子どもたちは写真を撮るために明るい部屋に動かすこともできなかった。この病棟にいる結核にかかっている子どもたちは全員、顔と歯列弓の正常な発達が見られなかった。この子たちの両親は近代食を食べていた。
図114 この患者たちはニュージーランドのマオリ族を対象にした結核病院に収容されている。上の患者は、顔の中ほど3分の1が未発達で、下の患者の顔は中ほどと下の3分の1が未発達である。この病院の30歳以下の患者はすべて歯列弓と顔の形が正常には発達していなかった。
図114と115は、ニュージーランドの結核病院で数人の患者を撮ったものである。顔の中間部分が十分発達していないこと、顔が細く、長くなっていることに注意されたい。この病院の数人の患者は上の歯列弓が普通の人ならば外側に出るはずのものが内側に入り込んでいる。ここでも若い患者連中はみんな胎児のときに障害を受けており、91.2%の患者に歯列異常が見られた。
図116は、ハワイのヒロとホノルルの結核病院に収容されている人たちである。この病院の患者の100%に顔や歯列弓に異常が見られた。
特異体質の性質にかかわる諸要因についてはよく知られてはいるが、特異体質を実際につくり出す動因については遺伝学的影響以外にはまだ明らかにされていない。ここでは、遺伝以外の形成要因を考究してみたい。
図115 この若い女性もニュージーランド病院のマオリ族のための結核病棟にいる。顔と歯列弓に著しい発達障害があることに注意してほしい。彼女たちの鼻孔はみな狭い。
図116 結核病院に収容されているハワイ原住民。ここの子どもたち全員に顔の発達と歯列弓の形状に著しい障害が見られる。
個人の体質とそれによる罹病との関係についてデータをまとめるという点で大いに進歩に貢献したのは、ジョージ・ドレーパー博士のすぐれた指導のもとで実施されたコロンビア大学の体質診療所とニューヨークの長老病院の研究だった。ドレーパー博士は全体としての人間を次の4つの角度から見なければならないことを発見した。「体格、機能、免疫性と心理的側面」の4つである。これらの特質を彼は「人格の4つのパネル」とも呼んでいる。彼は2冊の教科書、一つは『人間の体質』(2)、もう一つは『病気と人間』(3)と題される書物の他に数冊の本を出している。
ドレーパー氏は病院における臨床データから、つまり患者の体質に関するデータからこの問題に接近しようとしたが、これに対して私は、近代文明に触れると同時に身体的変化が起こり病気に対する免疫性がなくなった未開種族を対象にした研究によって、これに接近しようとした。両者の結論はよく似たものとなっているため、2人ともお互いの観察結果をひじょうに重視している。ドレーパー博士は、病気にかかりやすいかどうかは顔と歯列弓が大きな鍵を握ると力説している。彼はある本の中の「顔、顎、歯と体質の関係、およびそれらと病気との関連性」という章の終わりにこう述べている。
しかしながら我々がこの観察結果から学んだことは、人間の体を知ろうとする研究者にとって顔と顎はひじょうに貴重な情報を与えてくれるという教訓である。内科の医師として、我々は、感染病巣を発見するためには歯茎と歯を調べるように教えられてきた。しかし、有機体として人体を学ぶものにとって、歯と顎は個人の全人格を知ることのできる貴重な情報を与えてくれる。歯科医学に携わる者は、このことを観察し、関連を明らかにできるめったにない好機会にある。口腔と人体組織との関連に興味をもつ歯科医学生は、内科医の専門分野との間の重要な連絡役となろう。顔の形に異常が見られるとある特定の病気にかかりやすいという、両者の一定の結びつきが存在していることは明らかである。私の調査からも、顔の異常は両親の不十分な栄養摂取が原因で起こることが明らかである。ここで関心にのぼることは、このような現象の下に横たわっている要因である。
人間をバラバラの要素からなる集合体ではなく全体として機能するというふうに、人間を総体としてとらえるようになればなるほど、こうした議論、つまり全体としての人体と、我々が病気と呼んでいる環境への不適合の諸反応との関連性についての論議の基礎となる一般的な概念によって、諸分野が融合していかなくてはならないのである。
この、人間にあてはまる問題を究明するにあたっては、家畜や野生動物から多くのことを学ぶことができる。つい最近まで、アメリカやヨーロッパの大動物園の園長の話によると、猫科の動物は母親が森林で生まれていなければ、艦の中では正常に繁殖できないのである。したがって動物の子どもが生まれないので、以前では、動物が死に、艦の中が空っぽになったり、また拡張のために新しい動物を入れるときには、すぐさま、野生の、ライオン、虎、豹、またその他の猫科の動物を補充しなければならなかった。
ロンドン動物園から野生動物の一人の専門家が新しいライオンを探すのと、今述べた問題について研究する目的でアフリカヘ行ったという話を聞いた。この専門家はライオンが住む地域で、ライオンがシマウマを殺す場面を目撃したのである。ライオンは、シマウマの腹を抉り右の脇腹の内臓を食べた。つまり肝臓を食べたわけである。それから他の内臓をいくつか選び、そしていったんシマウマから身を引き、前足で死骸に土をかぶせ、後はジャッカルのために残して去っていった。この野生動物の専門家は急いでシマウマの死骸まで行き、ジャッカルを追い払い、シマウマのどの部分がライオンによって食べられたのか調べた。実はこの調査が、艦の中で飼育されている猫科の動物の繁殖史をまったく塗り変えてしまう契機となったのである。艦の中に捕らわれたジャングル生まれの動物に、内臓を混ぜた飼料を与えると、繁殖が可能になるのであった。また、生まれた子どもも、子孫をつくることが可能になった。私はライオンの群れを飼育する一人の責任者といっしょにライオンが内臓を食べる時の模様を研究していた時、彼は、野生動物がどのような臓器を特に好むのか、またどのような食物が動物の繁殖能力を増進させるのか、詳細に記録をとっていた。彼の話によれば、ライオンの値段は以前では良種のもので1頭1500ドルもしたのであるが、今ではたいへん数が増え値が下がったため1頭15セントほどの利益しか上がらないとのことだった。また、猫が小さな齧歯類〔ネズミ・ウサギ・リス〕や鳥を殺していったいどこを食べるか観察してみれば、筋肉だけを食べるのではないことに気がつくはずである。
動物を使って生態観察を行なっていた時、ウサギを飼っていた部屋に納屋ネズミが忍び込み、1晩で数匹のウサギを殺した。またある時は、2回にわたってウサギの眼玉だけが食べられ、血も吸い尽くされていた。また、脳みそだけが食べられていた時もあった。ネズミは、ウサギのこうした特定の組織から得られる特別な栄養素の必要性を知っていたに違いない。
身体的退化の問題のなかでいかなる要因が作用し、それがどのような働きによって退化を生ぜしめるのかを理解することほど重要な点はない。そして、前述の各章でも述べてきたように、この要因は連続する2つの世代の間でもかなりの変化を生ぜしめるほどの速度で影響を与えることができるのである。そしてこの要因が両親の栄養の摂や方に根ざしているということは、前述の資料を参照すれば明らかである。
食事の化学分析(第15章)によれば、退化現象に悩まされている人々には、ある種のビタミンやある種のミネラルの摂取量が著しく少ないことがわかる。
多くの研究者は生前も生後も子どもの成長にとってビタミンAがひじょうに大事であると指摘している。ビタミンAの不足によってもっとも支障を起こしやすい部分は眼である。そういったことからこのビタミンは当初、眼球乾燥症ビタミンと呼ばれていた。眼球にとってビタミンAが大切であり、それが眼球組織の中に貯蔵されているということは、いくつかの研究が強調してきたところである。
眼球組織の中に含まれているビタミンAについてウォールド氏(4)は次のように述べている。
眼球組織(網膜、色素上皮層〔虹彩後面〕、脈絡膜)からの抽出物はビタミンAに特徴的な吸収帯がSbC13テストで620mu.であることがわかった。そしてこの含有量ならば、ビタミンA欠乏のネズミを治療することもできる。哺乳類は一般的にビタミンAの濃度が同じで乾燥組織1g当たり約20Y含まれている。この指摘は、真冬の寒さ厳しい時に納屋ネズミがウサギ小屋を襲撃したことと関連させて考えると、ひじょうに興味深い。ビタミンAは眼の正常な機能にとって不可欠のものであることは明らかにされているが、眼の組織が形成される過程でそれが果たす役割については究明されていない。たぶん、今日では家畜がビタミンA欠乏症にかかっているかどうかを試すには、半暗闇での反応を観察するのが一番良い方法である。
エドワード・メランビ氏(5)は、ビタミンA欠乏と聾唖とに関する新しい貴重なデータを提示している。1937年11月にロンドンで開催された生化学学会での発表要旨によると次のように述べられている。
私は今までの論文で、特に穀物を多量に与えられている場合、若い家畜にはビタミンA欠乏によるある顕著な障害が起こるのだが、それは中枢および末端神経組織の退化症状であることを明らかにしてきた。主として障害を受けるのは、末端神経組織では第八神経、蝸牛殻と内耳前庭の両隔壁といった求心性神経である。子犬の場合ビタミンA欠乏は神経節、神経、側頭骨内の聴覚と平衡器官に退化の症状をもたらす。子犬の聴覚については、それがかすかに衰えたものからまったく聞こえなくなったものまで退化のあらゆる段階が見られた。内耳前庭よりも、外層に通じている神経細胞が損傷しやすい。そうなると、もし螺旋状の神経節細胞がなくなると耳が聞こえなくなるのと同じように、食事にビタミンAをいくら補充しても効果はないし、外層器官への神経葉脈は完全に断ち切られてしまう。ビタミンAを補強した食物を与えられていた犬が「怠慢」な様子を示していたのを、私は以前には脳障害のせいだと考えていた。しかし本当は耳が聞こえなかったためだったのである。こうした結果がある種の人間の聴覚障害にもあてはめられるかどうか、それは今後に残された課題である。ビタミンA欠乏が妊娠しているネズミに与える深刻な影響について、メーソン氏(6)は次のように報告している。
ビタミンAの量を種々様々に変えた食事を妊娠中のネズミに与えたところ、ビタミンAの不足した食事をしていたネズミの妊娠には異常が見られた。妊娠期間が最高26日間も延びたり、また出産に2日間も要するような難産だったり、時にはネズミの母親と子の両方が死ぬ場合も少なくなかった。乳牛(妊娠中の牛、その子ども、牛の乳で育てられた子牛を含む)の飼料にビタミンAが欠乏するとどういった障害が起こるか、メイグス氏とコンバース氏(7)は次のように報告している。
ベルツビルでの調査に基づいて我々は1932年に次のような報告をした。それは、子牛に頻繁に与えている飼料にはビタミンAが危険なほど不足しており、また青味の薄れたまぐさで育った牛から絞った乳を子牛に与えることがビタミンA不足につながるだろう、という報告であった。この中間報告では、4頭の牛に2年間優良な穀物の混合飼料と遅く刈った青味の失せたチモシー〔オオアワガエリという牧草〕とを与えた研究結果が示されている。これらの牛から生まれた6頭の子牛のうち、2頭が死に、1頭は立つことができず生まれてまもなく死んだ。そして残りの3頭は虚弱で眼が見えなかった。このような飼料では母牛がお腹の子牛を十全に育てられなかったという事実から、我々は、こうした母牛の乳が、十分なビタミンAを含んだ飼料で育てられた他の牛から生まれた子牛を正常に発育させることができるだろうか、という疑問をもつに至った。そこでこの予備報告では、青味の薄れたチモシーのまぐさで育った牛の乳を、正常に育った3頭の子牛に飲ませた結果にも触れている。そしてこの3頭の子牛はそれぞれ生後57日、62日、71日で死んでしまった……。生前でも生後でも身体の成長は脳下垂体と直接関係しているので、この脳下垂体の機能を考えるのに役立つ知識がないものか、ということが気になる。
バリー氏(8)の研究はこうした問題に重要な光を与えて彼は次のように述べる。
雌ネズミに、栄養はほぼバランスがとれてはいるが、ただビタミンEがほんのわずかしか入っていない餌を与えたところ、このビタミンEの欠乏によってネズミは妊娠期間が長くなり、正常な場合よりも10日ばかり延びたのである。このような状態で行なわれた出産は正常なものではなかった。生まれた子ネズミには2つのタイプがあった。一つは豊富に乳が与えられたにもかかわらず、発育が遅く、痩せこけ、普通と比べ小さかった。もう一つのタイプは肥り過ぎで、足が弱く、生後18日に手足の痙攣が起った。両タイプの子ネズミは、ともに頭蓋骨が薄く、毛は絹のように細くまた短い。成熟したネズミの場合、完全なビタミンE欠乏症にかかると、毛は柔らかくなり、頭蓋骨は石灰質のように脆くなる。またビタミンEが一部不足すると、子どもは時折生むことができるが授乳ができなくなる。ビタミンEの量が十分与えられない場合、多くの動物に妊娠不能がみられることは多数の研究者による研究で発表されている。A・L・バカラック氏、E・アレホーン氏、H・E・グリーン氏はこの要因の研究を、食事に必要なビタミンE量を測定する手段として用いたのである(9)。彼らは言う。
このような症状は、脳下垂体を外科手術で取り除いた時に起こる変化といろいろな面でよく似ている。たとえば、障害ネズミや不妊症親ネズミでは脳下垂体前葉の著しい顆粒減少がみられる。したがってビタミンE欠乏は事実上幼少のネズミに栄養の与える力によってあたかも外科的に脳下垂体切除を行なうと同様の結果を与えることになる。
ビタミンEの働きについて研究するために、ビタミンEを減らした食餌を離乳期から雌ネズミに与えてみると、着床卵の吸収〔gestation-resorption 一種の流産〕率は、ほぼ100%になった。また、これに反して十分なビタミンEを補った食餌を離乳時期から与えると、生きて生まれる比率は100%に近い。ビタミンEの不足が原因して、1度でも着床卵が吸収されるという経験をもつネズミと初めから十全な餌によって育ったネズミを初めて交尾させた場合とでは、受胎(妊娠)率が著しく違うこともこのような食餌の実験から判明する。このことから着床卵吸収過程というものは、これまでビタミン欠乏症候群だとは認められていなかったが、実はそのような原因からネズミの生殖機能に深刻な変化をもたらすものであることを著者たちは提言している。未開種族が近代文明に接した時点で、出産過程が楽にしかも効率的に行なわれなくなっている、という顕著な変化が起こることに気がついた。オンタリオの6種族保留地(インディアン)を訪れたとき、その地域の担当医師の話によると、彼がそこに赴任してから28年経つが、今では病院は主として若いインディアンの母親が異常出産のために入院しているとのことだった(第6章)。
アラスカのアンカレッジにはエスキモーとインディアンのために政府が設立した病院があるが、同じような印象深い話を院長のローミッグ博士から聞いた。彼は36年間エスキモー社会のなかで働いてきたが、未開のままのエスキモー婦人が正常な出産を行なっていた頃にはまだ彼はここに来ていなかった。両親が近代食を食べ始めてから生まれた新しい世代であるエスキモーの若い女性に関しては、出産状況が実質的にも変ってきている。若い女性連中のなかには数日間陣痛の後、やむなく病院に連れて来られるほどであると述べられた。またあるエスキモーの婦人は2度結婚し、2度目の夫は白人だったのだが、彼女には26人の子どもがおり、そのうち数人は真夜中に夫を起こすこともせず出産し、翌朝夫に赤ん坊を見せたものだった、とローミッグ博士と私に話してくれた人がいた。
ビタミンAに関して今日知られているような考えをうち立てたという点で、多くの貴重な業績を残しているジャーマン氏(10)は、最近の書物で、動物の正常な成長を助けその身体をいつも健康に維持するのに必要なビタミンAの量だけでは、より多くの栄養が必要になる出産や授乳期には不十分であると述べている。出産が良好でない場合、その生まれた子どもは青年期において病気に対する抵抗力が弱いのが普通である。とりわけ若い男女が肺結核によくかかる年頃には、肺の病気を患いやすいのである。さらに、良好な栄養状態、普通以上の健康と力強さを保とうとするなら、ビタミンAは成長期だけではなく成人になってからも十二分に供給されなければならない。
ヒュース、オーベル、リンハルトの3氏(11)の研究によると、豚の飼料にビタミンAが不足するとひどい運動失調症と、ひきつけが起こるとある。また若い豚が種づけされてから後にそのような神経症状が出たような時には、流産か通常の分娩かにかかわりなく子豚は死んでいたと力説された。
ハート氏とギルバート氏(12)は、ビタミンA欠乏症の家畜にたいへん一般的にみられる徴候は、出産した子牛が死んでいるかあるいはひじょうに病弱で、眼の障害にかかっている場合もあると指摘している。また、生まれた子牛の身体の状態は、下痢症状を起こしており、未熟児の場合には眼の障害がみられるともいう。
ヒューズ氏(13)は豚を大麦と塩で飼育したが、出産は起こらなかった。ところが、この飼料に肝油が加えられると子どもが生まれたのである。
シュアー氏(14)の指摘は、ビタミンAが欠乏すると雌の動物において発情期と排卵期が一定しなくなり、その結果不妊症が起こるというものである。さらに不妊を防止するビタミンとして知られているビタミンEがたとえ大量に飼料に加えられても、ビタミンAが欠乏すれば流産することもあると述べている。
この分野でもっとも重要な貢献をなしたのは、テキサス州コレッジ・ステーションにあるテキサス農業実験所のフレッド・ヘイル教授である。彼は豚の飼料のビタミンA含有量を減らすことによって、様々な比率で簡単に奇形の多くが形成されることを実験した。6腹から生まれた子豚59頭(15)は、全部眼が見えなかったが、これらの親豚には交配される前の数ヶ月と交配後の30日間ビタミンAが与えられていなかったのである。豚の眼球は30日間で形成されるのだ。ヘイル博士は、他の人も言っているように、かなりの期間にわたってビタミンAが欠乏すると豚は麻痺状態と、ひきつけ症状を起こし、その結果、豚は両足で立ち上がれなくなると述べている。ビタミンA欠乏症にかかっている豚のうち、以前に生んだ子豚の10匹が10匹とも眼球がなかったという母豚に、交配の2週間前に1回だけ肝油を適量分与えた。するとこの豚は14匹の子を生みはしたが、子豚はすべて全盲で、両眼のないもの、片眼だけのもの、眼球が大きすぎたり小さすぎたりするものというように、種々様々な取り合わせで眼球の障害が現われたのである。
図117はヘイル博士の御好意によって得ることができた眼球のない豚、正常な豚の眼球(左下)、さらに上に述べた母親から生まれた子豚の不完全な1対の眼球の写真(右)である。ビタミンAの1回の投与が視神経と眼球を部分的に形成することを可能にしたのである。図118(下)は眼球のない豚の典型例である。耳の奇形に注意してほしい。ビタミンAが欠乏している飼料を与えられた雌豚から生まれた子豚に見られる多くの身体的障害のなかには、鼻、歯列弓、眼、足の重度障害が含まれている。この写真の豚は生まれた時から眼球がなかった。また彎曲足をしており、腫瘍が2ケ所あった。図118(右上)の豚は口蓋裂で、図119(右上)は2重の兎唇の豚、図118(左上)は口蓋裂と眼に障害をもった少年である。ヘイル博士の研究の重要な成果の一つは、母豚の飼料のビタミンA欠乏によって眼球がない子豚が生まれたが、その子豚から正常な眼をもった豚を生ませたことである。これは明らかに遺伝によるものではなかった。2匹の雌豚に、交配前とそれ以後の各30日間というものはビタミンAを意図的に与えないでおいた。そしてそれぞれ9匹、8匹の子豚が生まれたのである。その子豚たちには次のような障害が見られた。すべての子豚には眼球がなく、外耳の穴が未発達のものがおり、他のものはみつくちであったり、肝臓、卵巣、睾丸の位置が異常だったりしたのである。
1935年10月、ヘイル博士は興味深い事例を紹介している。テキサス州ロールズにある農場で1935年6月に同じ母親から眼の悪い子豚が16匹生まれたという報告が同州の農業試験場に届いた。そのうち無事に育った6匹が研究用に同試験場に連れて来られた。この豚の持ち主である牧場主の話によると、1934年3月から1935年5月までは自然飼料を使用しなかったという。この条件が、妊娠前とその直後にビタミンAの投入を制限したために59匹の眼球のない子豚が生まれたという。実験牧場の事例に匹敵するものであることは注目してよいだろう。
1935年4月、干魃下のテキサス州マクグリーンで、ロールズと同じような7匹の子豚が生まれたとヘイル博士は報告している。その子豚と母豚は実験農場に引き取られた。そして子豚同士を交配させたのである。ビタミンAの豊富に入った飼料が与えられ、子が生まれたが、今度の子豚には正常な眼球が備わっていた。母豚と、栄養のバランスの欠けた餌を食べていた時に生まれたその目の見えない子豚とをつがわせた時も、両方にビタミンAを十分与えると、なんと健康な子どもが生まれてきたのである。「もし、遺伝的な要因がこの先天性の盲目の原因であるとしたら、餌のなかにビタミンAを強化しても、やはり目の見えない子豚が生まれるはずだ」と博士は述べている。
図117 上の豚はビタミンA欠乏症の母豚から生まれた59匹のうちの一匹で、生まれた時から眼球がなく、その他にもひどい障害がある。このような眼の見えない豚にでも正しい飼料が与えられさえすれば、眼も見え、他の障害もない子どもが生まれる。下の図の左にあるAは、生後9ケ月の豚の正常な眼である。右のBは眼球の一部と視神経であるが、これは交配2週間前に1服のビタミンA剤を与えた豚から生まれた子豚のものである。(写真提供フレッド・ヘイル教授)
図118 左上---口蓋裂とみつくちの少年。右上---口蓋裂で眼球のない豚。下---えび足、耳の異常、2つの腫瘍、眼球欠除の豚。これらは母親の食餌に十分なビダミンAが欠乏していたために起ったものである。(ヘイル博士の提供による)
先天性の口蓋裂の問題は、そのことで深刻に悩む子どもをもった母親をもいたたまれない気持にさせるものである。可愛らしい犬の飼い主が自分たちの飼い犬やその血を引く子犬のなかにこうした問題が起って当惑しているのをよく見かける。
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