食生活と身体の退化
〜未開人の食事と近代食・その影響の比較研究〜

W. A. プライス著、片山恒夫訳

第17章 身体的変形の原因


諸種族は、共通の祖先をもっとみなすことができる身体的特徴や外観に基づいて分類されている。祖先の一定の特徴を変えることなく再生産するというのが、遺伝の基本法則の一つである。ここで我々が考察しようとするのは、通常の再生産過程からの逸脱についてである。

種族がどれほど広い地域に分散していようが、その特徴を大自然が細部に至るまで正確に再現する様子は、メンデルの法則がどれほど深く根を下ろし、作用しているかをまことによく示している。図98に示した4人の男たちは、それぞれ別の4つの島で生まれたメラネシア人である。もちろん彼らは互いに会ったこともないのだが、まるで兄弟のようではないか。同じく、図99に示したのはポリネシア人の4少女たちである。彼女らも互いに姉妹かと思うほどよく似ているではないか。しかし、彼女たちが住んでいるのは、ハワイ、サモア、タヒチ、ラロトンガという4つの異なったポリネシア諸群島なのである。

異なった人種が混血すると、祖先の一定の特徴のうち、片方かあるいは両方の典型的な特徴が現われてくる。しかし、人種の混血によらずに顕著な祖先型からの逸脱が生じることもある。そうした結果は遺伝によらず、しかも遺伝に関わらずに起こることもあるのである。前章で私が示したのは、未開種族の中でも近代化された集団に属する個人には、その人種の典型的なパターンから逸脱した顔つきや歯列弓の形状が顕著に現われることもあるということであった。我々が知りたいと思うのは、こうした祖先の特徴からのずれを生じさせる原因となる力がどのようなものであるかということである。ペルーの古代文明に属していた人々の頭蓋骨1276例を研究した時には、近代的な生活を送っている白人や近代文明の食料を摂るようになってから生まれてきた未開人の子どもたちに見られたような、正常型からの顕著な逸脱といったものは、ただの1例も見出すことができなかった。この点はさらに詳しく究明しなければならない重要なことである。

図100に示した2人は、私たちがペルーで調査したインディアンの父子である。上段の父子は、タララという高度に近代化されたインディアン居留地に住んでいた。父親は海岸にある油田で働く労働者であった。この地方は極度に乾燥した砂漠であったから、石油産業に従事する人たちが多く住んでいた。その居留地へは、船で食料を運ぶ以外には方法がなかったのである。父親の方は、豊富にあった海産物を含めて海岸で採れる食物を彼の両親がまだ利用していた時に生まれている。子どもの方が生まれた時は、すでに両親が近代文明の提供する食品を採用した後であった。下段の父子はシェラ高地に住んでいた。父の方は、インカの末裔のインディアンであり、彼が生まれた時には、その両親はまだクスコにほど近い高原地帯で採れる土着食で生活をしていた。その右の息子が生まれたのは、彼の両親がすでに近代食を摂るようになってからのことであった。これらの父子間に顕著な変化が見られるのは、父親たちが白人の食物を摂るようになってから生まれた第一世代としての子どもたちに現われた変化によるものであり、また遺伝によるものではないということを心にしっかりと留めておいてもらいたい。


図98 この4人のメラネシア人の少年たちは異なった島で生まれたのであるが、まるで兄弟のようにみえる。しかし血縁関係はない。これらの例は、その種族固有の特徴を再現する遺伝の役割、というものを実によく示している。しかし、遺伝は、生殖細胞に欠陥がない時にのみ正常な働きをするのである。


図99 この4人のポリネシア人の少女たちも別々の島に住んでいる。彼女たちは姉妹のように見えるが親類でも何でもない。彼女たちは遺伝に何の障害もないため、種族の特徴をそのまま留めているにすぎない。


図100 遺伝に障害がある例。左上はペルーの海岸地方に住む未開のインディアンで、右の息子の父親であるが、顔も歯列弓も正常な発達を示している。右の息子の方は、顔の形にも歯列弓の形にもひずみが現われている。左下は、顔も歯列弓の形も立派な未開のアメリカインディアンで、右の子どもの父親である。右の息子は、種族の特徴を再現していない。息子たちは2人とも混血ではない。

図101の上段左に示したのは、中央アフリカのワカンバ族の父親であるが、彼は労働者たちに食料を供給するうえで大きな役割を果たした鉄道会社で働いていた。右の少年はその息子であり、両親が輸入されてきた食物を食べるようになってから生まれた子どもである。図101の下の写真は、フィジー島に住む父子を撮ったものである。父親の方は土着の食料で生活していた両親のもとに生まれたが、息子の方は、両親が白人の食物を摂るようになってから生まれている。ここに示したすべての例は、大自然の正常な手順が抑制されることによって起ってきたものばかりである。こうしたことに加えて我々の手元には、この問題が、実は両親のどちらか一方あるいは両方の生殖能力が徐々に低下していることと関わりがあると思われることを示すデータがある。

どの種族であれ、近代化された家族を写真に撮っているうちに、家族の中でも年若い成員の顔の表情に変化が生じていることが多いのに気がついた。家族内で顔の輪郭に変化が現われるといったことは、土着の食事で生活している未開人には見られないことである。

こうした対照的な姿は、図102に示した兄弟と姉妹を見ればわかる。どちらの組でも年齢の若い方つまり弟と妹の顔に顕著な変化が見られる。弟や妹の歯列弓や鼻孔は兄や姉に比べて狭くなっており、顔の真ん中とその下の3分の1の発達がきわめて良くないのである。

近代化されたオーストラリアの原住民には、家族の中でも特に子どもにこうした退化が進行しつつあることを実によく示しているものがある。図103(上)に示したのはある家族の兄弟である。この少年たちの両親は2人とも奥地で生まれた。その写真を撮った時点では彼らもある居留地に住んでいて、政府が支給する貴重な近代食で生活をしていた。これと同じことは下段の写真にも見られる。特に注意してほしいのは、顔の中ほど3分の1がきわめて未発達であることである。

近代化されたニュージーランドのマオリ族では、驚くべき例に出くわすことがよくある。図104の上段に示した姉妹は、極端に顔の形が違っている例である。左の姉はその種族特有な顔つきをしているが、右の妹ではそれがまったく見られない。


図101 遺伝に障害があった例。左上は、中央アフリカの未開のワカンバ族の一員で右の子どもの父親である。右の息子は種族の特徴を再現していない。左下は、未開のフィジー島人でその種族に典型的な顔と歯列弓の形を示している。右下は、その子どもで歯列弓が狭くなり、顔の形にも変化が見られる。子どもは2人とも混血ではない。


図102 遺伝に障害があったキチュア・インディアンの例。右上の姉妹のうち妹に顔や歯列弓の形態に顕著な変化が起っていることに注意してほしい。またそれは、右下の年下の子ども(弟)もそうである。この両方の家族を見れば、後の子どもほどその時の両親の生殖能力の低下を示していることがわかる。


図103 遺伝に障害のあった例。この子どもたちは、オーストラリアの原住民である。上は同じ家族の兄弟、下は別の家族の姉妹であるが、いずれも右側の弟や妹に顔や歯列弓に顕著な変化が起きていることに注意してほしい。これは両親の生殖能力が弱められた結果である。


図104 上は、ニュージーランドのマオリ族の2人の少女。下は、ペルーに住む2人の白人少女。いずれも姉妹であるが、姉に比べて妹の顔に変化が起きていることに注意してほしい。

顔かたちに起こる変化が人種的な混血の結果であるとするなら、これらの例が示しているような形態の歪みが現われてくるはずがない。事実そうなのであって、遺伝であれば同一の家族に数種の異なった歪みが現われてくることはない。図103の下段右に写っている年下の子どもは、上の門歯とそれを支える骨が下向きに発達しなかった例である。この少女は、臼歯が噛み合っている時でも前歯にはかなり隙間があってうまく噛み合っていないことに注意していただきたい。

白人種の場合にも似たような傾向がみられる。図104(下段)に示したのはある姉妹の例である。右の妹は、顔の真ん中と下の3分の1が発達していないことがはっきりとわかる。こうした状態は家族の中でも若い成員ほどひどい損傷となって現われることが多いのだが、こうした事実の存在は、その原因となる要因を探ってみることが重要なことであるということを物語るものである。銘記すべきことは、幼い子どもに損傷が現われると、大人になった時にはもっとひどいものになるということである。こうした奇形が広がるのは、10歳から14歳頃のちょうど永久歯が生えてくる時期なのである。

近代文明との接触が始まったばかりのオーストラリア北部の島では、大人たちは誰もが種族の特徴を変わらず受け継いでいたが、接触を開始してから後に生まれた者には、その種族の特徴からのずれがいろいろと見られるようになった。図105に写っているのはある家族の6人兄弟である。そのうち4人は近代的な商品を扱う売店が設置される以前に生まれているが、あとの2人は両親が輸入食品の影響を受けるようになってから生まれた。年長の4人の兄弟は顔かたちがひじょうによく似ているし、4人とも種族の特徴をそのまま再現しているのがわかる。若い方の2人には、はっきりと顔かたちに変化が見られる。これと同じことが図106の上段の例にも示されている。その写真に写っている長兄はバデュ島に売店が設置される以前に生まれたが、年下の2人は、23年前に売店が置かれた後に生まれたのである。

家族の若い成員にいくほど奇形がひどくなるという問題は、図107に示した人たちにも現われている。最年長の少女は、正常な広い歯列弓をもち、その人種に特有な特徴を受け継いでいる。二番目の少女では、その顔の幅が明らかに狭くかつ細長くなっている。三番目の少年は、種族の特徴からのずれがひじょうに明瞭に現われている。この3人について、歯を出したところを写して下段に示した。最年長の少女は広い歯列弓をしているが、それは自然に形成された正常な場合には典型的に見られるものである。二番目の少女には、口蓋が狭くなったことの原因でもある臼歯や両方の犬歯の側面一帯に著しい陥没が見られる。第三番目の子どもは、顔が細いことに加えて骨の発達に関しても顕著な奇形があり、そのため上下の犬歯は両方とも歯列弓の外側にすっかり押し出されてしまっている。歯列弓の幅が狭いことに対応して、口腔全体も狭くなっているので犬歯の場所が失くなってしまっている。犬歯が歯肉の上の方に萌出している様子は図106の下段の写真からもわかる。


図105 6人兄弟のうち、年長の4人は、バデュ島に白人の経営する店ができる以前に生まれている。右下にいる年下の2人はその後で生まれた。顔の形が変っていることに注目してほしい。


図106 上の右端にいる長兄は、バデュ島に店ができる前に生まれた。年下の兄弟3人はその後で生まれた。顔の形が変っていることに注意してほしい。下で注意してほしいのは、歯列弓がひどく狭まっているため、犬歯の生え出る場所がなく歯列外に押し出されていることである。この少年は、図107左にいるのと同一人物である。


図107 オーストラリア北方諸島出身の原住民たち。上では、年下になるにつれ顔や体が細長くなり、顔つきが変っていっていることに注意してほしい。下では、右端にいる最年長の少女の歯列弓が広いこと、真ん中の少女では、小臼歯や大臼歯が横に押し出されていること、左端の少年の顔の発達がよくないことなどに注意してほしい。この3人はオーストラリアの北方にある島に住んでいる。

図108は、ニュージーランドに住む白人でガールスカウトに加入している3人の写真である。彼女たちの間にも若い者ほど肩や胃部を含めて身体自体が細くなっていることに注意してほしい。このことは図107でも見られる。

こうした身体的な障害が顔や歯列弓に限られていれば、それは却って驚くべきことであると言わねばならない。その他の奇形に属すると思われる障害を示したのが図109である。これは近代化されたマオリ族のある家族の子どもたち3人である。最年長の少女はマオリ族に典型的な顔つきをしているようではあるが、彼女の弟たち2人にはかなりひどい湾曲がみられ、顔の中ほど3分の1の発達が特に悪い。脚をみると、長女はまっすぐに伸びた足をしているのに、二番目の子どもは扁平足であり、三番目の子どもは足が湾曲している。

私はこれと類似の例が近代化された未開種族には幾つかあるのに気がついていた。環境が異なれば、障害となる要因も異なるはずであろう。干魃、不況、失業といったものは、すべて影響力をもっている。図110に示したのはニュージーランドのマオリ族の子どもたち3人である。二番目の子どもは三番目の子どもより背が低く、顔にも障害のあることがわかる。年上の姉や年下の弟は正常な足をしているのに、真ん中の子どもは顔の成長がひどく悪いことに加えて足も曲っている。

私の患者には11人も子どものいる家族の七番目の子どもというのがいる。その家族は七番目の子を除いてどの子の顔も正常な発達をしている。彼女が生まれたのは、家族が食費として支出できる金額がひじょうにわずかであった苦しい家計状態の真っ只中にあった時のことであった。他の子はいずれも困窮状態の前か後に生まれたため、さしたる障害を受けていなかったのである。この患者には顔に奇形があったうえに、関節炎と一般的なリューマチ症状が見られた。彼女の顔の障害はひどく、特に中ほど3分の1の発達が悪かった。

顔の奇形とともに足にも奇形がある例は、未開種族の中でも近代化した集団には幾つも見ることができる。図111に示したのは、ペルーの近代化されたインディアンに見られる典型的な例といってもよい。この少年の顔は、上の歯列弓が狭くて、上下の歯の位置が反対に噛み合うといった異常な発達を示している。これに加えて、片方の足が奇形で脚全体としても短かくなっている。彼が住んでいるのは高原地方である。こうした様子は図112にもはっきりと示されているが、この例では顔にひどい障害があり、両足とも湾曲している。この少年は海岸に住むインディアンの一員である。

我々の発見した身体的奇形がひどく現われてきているのは、近代文明の食物を常用するようになった近代化の進んだ未開種族に多いのであるが、今では、アメリカの家族にも同様に、程度はそれほど異ならないが数においてはもっと頻繁に起ってきている。


図108 ニュージーランドの白人ガールスカウトたち。左端の少女は最年少であるが、顔が細長くて腰も細いことに注意してほしい。


図109 ニュージーランドのマオリ族。年上の姉に比べて、年下の弟たち2人には顔貌の変化が次第に明らかになっていることに注意してほしい。それから、足にも変化のあることに注意していただきたい。すなわち、正常と扁平足、えび足(内反足)になっている。


図110 ニュージーランドのマオリ族。真ん中の子どもの背が特に低いこと、顔が未発達で足に顕著な奇形のあることに注意してほしい。


図111 この少年は、ペルーのシェラ高地に住む近代化されたインディアンである。顔に発達障害があり、片足に奇形のあることに注目してほしい。


図112 エクアドルの海岸地方に住む近代化されたインディアン。顔や歯列弓が歪み、足がえび足であることに注意してほしい。

こうした奇形の原因を確定する一つの方法とは、出生届や死亡届を調べて、身体的奇形について記載されたデータを集めて考察してみることである。こうした方面の研究方法で際立った貢献をしたのが、ペンシルバニア大学のD・P・マーフィ博士であった。彼は、1929年から1933年にかけて記録の残っていた13万132人分の死亡証明書を検討し、1476例に身体的奇形についての記載があることを明らかにした。そこでマーフィ博士は、現地に調査員を派遣し、居場所を確認することができた890人についてその母親や祖母と連絡をとり、個々人の家族史を研究させることにした。このグループの中から、出生順位やその他必要なデータも含めて、ほぼ完全な家族史を明らかにし得たのは405例であった。彼の研究の中で特に強調されている点は、生殖活動の低下する期間があるということである。彼はある報告書の最後のところで次のように述べている(1)。

障害児が生まれたすぐ後の妊娠では、流産や死産、それに早産が起こる確率は、偶然に障害児の出産で起こる確率より高く、また、障害児の出産を経験していない場合の妊娠では、この3者の確率は偶然にそういったお産の起こる確率より低い。そして流産や死産、早産は、障害児を出産した直前の妊娠にもっとも多く発生している。

それらのことを考え合わせると、先天的に奇形をもった子どもが生まれるのは、正常な生殖活動が低下し、その期間が前後の妊娠にまで影響を及ぼすほど延びたことの結果であり、流産や死産、それに早産はもう一つの現われであると結論してもよい。

産科医は、流産、死産、早産の直後の妊娠では先天的奇形がありうることを疑問視するに足る理由---余り一般的なものではないが---があると考えているようである。
カナダのロンドンにあるウェスタン・オンタリオ大学のシュート氏からもらった私信には、流産した胎児を研究してみて、奇形の割合の多かったことが印象に残っていると記してあった。これは、結果的に生殖活動の低下をもたらす原因と奇形とが結びついていることを思わせるものである。

何らかの欠陥がある子どもが生まれるということと関連していうならば、胎児に障害が起こる時期とその原因を考えることが重要である。奇形児が2人以上いる40家族を対象にして、マーフィ氏は奇形の研究を行ない、この問題に重要な光を投げかけた(2)。彼の結論は、「この研究に関する限り、先天性奇形のすべてではないが、その多くは受胎以前に生殖質に欠陥があったからそうなった」というものである。

提起された問題の中でもとりわけ重要であるのは、両親のうちどちらが多くそれに関与しているかという点である。この問題にアプローチしようとして、マーフィ氏が行なった研究は、少なくとも1人は先天性奇形児がいる家族884例を扱ったものである。この家族のうち40家族には奇形の兄弟姉妹が2人から4人もいたのである。彼は広範な資料を表にして示し、そこから彼の解釈の説明となる例を挙げている。「研究の臨床的価値」というタイトルのもとで彼が述べたのは、次のようなことである。
この一連の家族に属する子どもたちの間では先天性の奇形が倍化されて現われる強い傾向があることは、上の(表中の)資料からも明らかである。それにまた、そうした欠陥はむしろ遠い親族に現われてくる傾向がある。そうした奇形の倍化現象は、あまりひどくない奇形について注意しておいたのと同じように、もっとひどい奇形の場合にも見られるのである。こうしたことの発見は、先天性の奇形が起こるのは主として受胎の前より後で胚細胞にもたらされるいろいろな影響の結果であるという理論を支持することになる。この理論の妥当性は、表Iと表IIにある3つの例によってもはっきりわかる。表Iの17番目の家族には幽門狭窄の子どもが3人おり、そのうちの2人は双子であった。表IIの6番目の家族は、口蓋裂のある2人の子どもがおり、彼らは異母兄弟であった。表IIの8番目の家族に属する2人の子どもにはどちらも右半分の横隔膜に欠損があった。こうしたことが次々と見られるのは、受胎する以前には作用しないある種の原因によってそれが起こるものであるとは考えることができないのである。・・・・・・

先の報告書にも示したように、その理由は、先天性の奇形は普通一般の人々の間でよりも、欠陥のある子どもの兄弟姉妹では24倍も多く見られるということがあるからである。全体として、ここに示した観察はさらに臨床的な興味を呼び起こすことになろう。

要約と結論
1. 2人以上の先天性奇形児をもつ40の家族について、兄弟姉妹の間で欠陥が倍化されるのかどうかを研究した。
2. 奇形の第一子に見られる欠陥は、研究例のおよそ50%には、次子以下にも同じ形で再現されていた。残りの50%には、その他のあらゆる欠陥が現われる。
3. 奇形の親族をもち、奇形の子どもがいる39の家族からなる第二のグループでは、その子どもの奇形と親族の奇形については、そのおよそ41%が同一の奇形であった。
4. 2人以上の奇形児がいる19の家族では、半分以上の家族で第一子の欠陥が第二子以下にも現われていた。
こうした重要な要因については、我々の近代文明の世界でも最近光を当てられるようになったばかりである。ところがいわゆる未開種族で、正常な生殖能力をも低下させてしまう出産という過重な負担をかけないよう母性を保護する必要性が意識されていたことを示す証拠が歴然とあることは、実に意義深いことである。例えば、G・T・ベイドン氏(3)は、『ナイジェリアのイボス族』と題する著書で、次のように述べている。
イボス族の女性にとって、3年以内に子どもをもうけることは不名誉なことであるのみならず、実際に忌み嫌われているのである。……出産と出産の間を最低どれほどおくかについての考えは、きわめて健全な幾つかの原理に基礎をおいている。母親が完全に体力を回復しうるには、その間隔をあけることが必要であり、またこうすれば、つぎの子どもを身籠もっても完全に条件がかなうのだという信念が広く行き渡っている。つまり上述の期間より間隔が近ければ、子どもは衰弱して病気がちになることは避けられないであろうし、その出産自体も危険にさらされるという考え方があるのである。
同じように、ペルー、エクアドル、コロンビアのインディアンたちも、母親の負担となるような妊娠は避ける必要があるということを熟知していたのである。ウィッフン氏(4)はその著「北西アマゾンの人々』で次のように述べている。
妊娠期間中だけでなく、授乳期間中も夫は妻との性交渉を一切ひかえる---しかもヨーロッパ人に比べてはるかに長い期間---という事実から考えても、妊娠している女性の数には注目しなければならない。その結果子どもと子どもの年齢差は最低2年半もあり、大多数はそれより長くなるのが普通である。
アマゾンのインディアンたちは、こうしたことが両親の栄養に関わるものであるという事実に気がついていたということは、記しておくだけの価値があることだろう。ウィッフン氏はまた次のようにも述べている。
このインディアンたちは、親---ある程度までは両親---が食べた食物が、子どもの出生、容貌あるいは性格にまではっきりとした影響を及ぼすものであるという、下層の人々にあり勝ちな信念を共有している。
子どもを生む時には期間をあけなければならないとする未開人の意識に関する問題については、メラネシア人やポリネシア人についての研究報告の中で、ジョージ・ブラウン氏(5)が強調したところである。彼はソロモン諸島のある島に住んでいる原住民について、次のように報告している。
子どもが生まれると夫は、その子どもが歩けるようになるまで妻と床を共にしないことになっている。その子が病弱であれば、人々は両親のことを語る際、「ああ、そうなんだよ、あの両親はまず自分たちを責めなければならないんだよ」と言うことだろう。
こうした新しい知見は、我々の近代文明の世界に起っている退化の問題にとって重要な意味をもつ。種族の特徴はたったの一世代で変ってしまうこともありうるのは間違いない事実である。とすれば、遺伝の役割に関して我々近代人が抱いている考え方やその教育については、遺伝の因果関係という点を修正しなければならない。遺伝が阻止されることによって起こる奇形は、遺伝という形で累積される様々の影響によって引き起こされる奇形とまったく同様、生物学的なものなのである。我々の世代の人間は骨格が彎曲し脆くなっているからといって、過去の世代を責めてみたり、そうすることで自分たち自身の責任を免れようとする。しかし、それはできない相談である。正常な状態からのずれを引き起こしているのは社会組織であって、その責任はひとえに社会組織が負わなければならないことは、こうした新しい資料によってはっきりと示されているのである。

このことは、近代社会の教育にみられる理論や実践に関わるいくつかの領域を完全に変えてしまうことになる。あたかも精神障害を正常な個人に及んだ環境の影響の結果であるかのように考えて、歪んだパーソナリティーの持ち主を管理したり世話したりするのではなく、精神障害は遺伝連鎖の一環に影響を及ぼしているある種のゆがみによるものと見なすべきである。しかもその歪みにしても、以前の遺伝連鎖が歪んだ結果であるわけでも、将来の連鎖の一環を統制する要因であるわけでもない。換言すれば、予後は個人その人にとって悪いものであったとしても、その人の子孫にとっても悪いものであるとは限らないのである。

身体的不具者でも、その多くは、明らかに実際上正常な脳の発達をみせているのだが、次章でも示すように、何パーセントかの人は、脳組織に大きな障害がある場合もあり、その行動の責任はその人自身がとるべきだとすることはできないし、またしてはならないのである。

したがって、本章で示した資料が、世界各地でいわゆる近代文明の影響のもとで起っている退化の進行という問題にとって重要な鍵をもたらすものであるとみることにやぶさかであってはならないのである。世界各地で一般に見られる身体的退化を避ける手だてを、ほとんどの未開種族はもとからもっていたということは深甚な意味をもつことなのである。また、未開人たちがこうした危険を認識していただけでなく、それを防止する適切な手段についても思いを巡らし、実行していたということは重要なことである。彼らは自分たちが重要であると考えた事柄を実現するのに十分な性格をもっている。近代文明を再編し維持するうえで性格の弱さは最大の障害となるにちがいない。

近代文明に属する多くの個人が陥る重大な弱点は、発育不全による叢生歯と歯の脱落の2つである。重要なことは、未開種族の歯列弓には、実際に第三大臼歯を含めてすべての歯が生え揃い、しかも正常な状態で生えていることである。近代化された未開人や近代的な生活を送っている白人の歯列弓には奇形が見られ、多くの歯が叢生したり、永久歯が生え揃わないといったことも時には見られる。顔や歯列弓の奇形が、妊娠期の母親の食事にビタミンAが欠けていたり、妊娠前の片方または両方の親の食事がそうであったために起こるのと同様、近代化に伴う問題も食事に関係していることは事実が示す通りである。その原因については次章で述べることにする。

引用文献

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